ため息がでる広告
僕のFacebookのニュースフィードには、当然ながら「映像」「動画」に関する広告がしょっちゅう表示されます。「未経験から動画クリエイターで稼げるなんて信じていませんでした。」とか「動画制作の教科書差し上げます」などというコピーを見るにつけ、ため息が出ます。。
100%ではないけれど
映像業界に足の指先をほんの少し突っ込んだだけでも、この業界では生涯貧乏暮らしか、生涯休みなしで働くことを覚悟しなくては、生きていけないことを知ります。つまりこうした広告は、業界のことを知らない、関わりない人を呼び込んでいるということでしょう。
キャッチコピーが言うように、未経験でつくることができる動画があるとすれば、それは映像制作技術には無関係で「ネタ」の面白さを映すだけのもの。動画制作の教科書があるならば、それ、僕が欲しいくらいです。
ネタを見つけることがクリエイティブ?
YouTuberによくあるタイプが、撮影対象や撮影方法の面白さを追求して「おもしろ映像」を撮影、投稿しつづける人。小学生の子供たちが、「将来就きたい仕事はユーチューバー!」というのは、大概このタイプです。でも、もしうまく投稿動画がバズったとして、そのヒットを何年続けることができると思いますか?早々にアイデアは枯渇することが目に見えています。僕にはこの仕事?は動画クリエイティブではなくて、テレビ番組の「構成作家」か「コント作家」に類する仕事のように思います。この手の作家として成功するには、そもそも「頭のデキ」がよくなければ続きませんし、勉強を続けなくてはすぐに飽きられます。
かと言って映像制作技術では大して儲からない
構成作家に匹敵する企画力とプロデュース力に、映像演出、撮影・編集の技術が加わった時に、ちょっとだけ儲かるかも知れません。でも、そんな成功を修めるのは100人にひとりもいないですし、映像制作会社に入社してサラリーマンクリエーターになったとしても、大半の人の給料は50歳になってもせいぜい600万円程度でしょう。悪いことは言いません。安易には考えないほうがいいですよ、この仕事。
ワンマン動画制作マンの現実
会社ではなく個人で動画制作を請け負う人
最近では営業、演出、撮影、編集、録音まで全部ひとりでやってしまう動画クリエーターが増えてきました。
拘束日数×特殊技能係数×格付け倍率
こうしたスタイルでの仕事の対価を積算する場合、お客様が考える価格というのは上記のような計算式をイメージするのではないでしょうか。
拘束日数
まず、お客様が納得できる拘束時間は、例えば、打合せ1回、撮影1日、編集2日、試写2回、録音2時間。納品1回。くらいでしょうか。
「1回」という場合は、拘束日数に直して0.5日、というのはかなり太っ腹な人。
これで拘束日数を計算すると都合だいたい5日。
日当はいくらが妥当?
一般的な?日当が20,000円(これも太っ腹?)として、撮影や編集はちょっと特殊な技能だから特殊技能係数1.5を掛けて30,000円とします。あくまで仮です。
30万円くらいがMAX
これに拘束日数5日を掛けると150,000円。更にこのクリエーターが、ちょっと著名ならば格付け倍率が2になって、合計¥300,000というあたりが相場となります。
この金額はかなりリアリティがある数字で、現実にある程度の実績のあるフリーランスのクリエーターが撮影1日で数分の動画を制作すると、このあたりの予算で仕事をしています。
※この予算には出演者や照明機材・スタッフ、画面づくりに必要な大道具や小道具+スタッフ、CGやアニメなどの費用は一切入っていません。「そこにあるものを撮って編集するだけ」という仕事を想定しています。
では、売上30万円に対して原価は?
収録機材、編集機材の減価償却費(自前機材の場合):数千円?
録音(MA)スタジオの借用料:30,000円くらい
音楽の購入、使用料(2、3曲):15,000円くらい
ナレータのギャラ(ローカルBランク):30,000円くらい
撮影、録音時等の交通費、諸経費:5,000円くらい
あくまで、よくあるパターンの経費ですが、これらを足すと80,000〜90,000円が経費として出ていきます。すると残りは210,000〜220,000円。
たった5日で22万円も儲かる!?
ウハウハじゃない!?と思うのは早計です。
「拘束日数は5日では済まない」
半日と計算する打合せも、そのための準備として、構成案やシナリオ、見積書やスケジュール表などの資料を作るために、少なくとも1日はかかります。シナリオのアイデアを練る時間も含めると2日や3日①は当たり前とも言えます。
「撮影の準備にも時間が必要」
周到なカメラマンであれば、撮影より前に必ず現場を下見します。機材の準備もありますが、撮影プランを考えたり、カット割りを考える時間も必要です。これも最低1日は必須②。
「実際の編集時間は膨大な時間が必要」
実際には朝から始めて徹夜をして翌日の朝完成したとしたら、それですでに24時間です。一般社会の労働時間で言えば3日分です。しかも、試写のあと大きな直しがあれば、また24時間なんてことはザラにあります。スケジュール上2日間と記されている編集時間は、実際にはあと4日③も掛かっていることになります。
計算してみましょう
見積上の日数5日+①+②+③=13日
というわけで、さすがに日曜日くらいは休みにしようとすれば、目一杯仕事を入れても月に2本しか制作できません。
30万円(粗利21万円)もらえる人は頂点の人
さらには撮って編集するだけで@300,000の予算を貰えるワンマンクリエーターは、ピラミッドで言えばかなり上層部です。あまり経歴を持たないクリエーターだと、この半分程度の1本15万円程度のギャラで請け負っていることも多いのが現実(ナレーションなし、音楽はストック利用)。月に2本・20万円の粗利から機材の購入、メンテナンス費を引き、社会保険料を支払うと、とても独立した生活は営めません。ましてや文化的な仕事環境、生活環境は手に入りません。
クリエーターに必要な資質、能力とは
仮にもクリエイティブを商品とするビジネスをしている人は、より多様な社会や価値に出会い経験して身につけていかなければ、多種多様なお客様のご要望には応えられません。
とにかく安く動画を作りたいと考えるのは人情というものですが、せめて発注する先の人間が楽しい気持ちで仕事に取り組める、安心してクリエイティブに没頭できる予算は出してあげて欲しいと思います。
ちなみに、映像制作を会社として請け負う場合は、実際の拘束日数(この場合13日)をきちんと明細に計上しますし、撮影時も何人かが現場に入り、手続きを踏んだ提案書で予めお約束した映像(←ここが大きい)を予定どおり収録できるよう万全を期します。だからご予算もワンマンの場合の倍から数倍になります。でも、B2Bの映像制作では、この「手続き」や「約束」「確実」無しには考えられません。お客様の会社が会社らしい会社?の場合、やはり会社として映像制作しているプロ集団にお任せいただくことをお勧めします。
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