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映像・動画はコミュニケーションなの?

Tomizo Jinno

コミュニケーションの本質と目的

人と人とのコミュニケーションの根本的な目的は、「自分の考えや感情を相手に伝え、相互理解を深めること」と一般的に考えられています。しかし、ビジネスや社会的な文脈では、さらに踏み込んで「自分の思い通りに相手を動かすこと」が目的とされることも少なくありません。良質なコミュニケーションとは単に情報を伝達するだけでなく、自分の考えを分かりやすく「相手に伝え」「納得してもらい」、自分の意図する方向に相手の「行動や考えを導き」、より早く確実な「成果を出すこと」と定義されることがあります。

この定義に基づけば、コミュニケーションの成功は、相手の理解度や行動変容によって測られることになります。しかし、これは同時に、コミュニケーションの倫理的側面に関する重要な問いを投げかけます。相手を「動かす」ことが目的であれば、その過程で相手の自主性や意思決定の自由が損なわれる可能性はないでしょうか。


コミュニケーションの成立要件

コミュニケーションが成立するためには、最低限、情報の送り手と受け手が存在する必要があります。しかし、ここで疑問が生じます。相手からの直接的な反応や対話がなくても、「コミュニケーション」と呼べるのでしょうか。言い換えれば、「一方通行」の情報伝達もコミュニケーションの範疇に入るのでしょうか。

この問いに対する答えは、コミュニケーションの定義や目的をどのように捉えるかによって変わってきます。先述の目的に照らし合わせれば、一方通行であっても相手を意図した方向に動かせれば、そのコミュニケーションは成功したと見なすことができます。しかし、これは非常に狭義な解釈であり、真の相互理解や対話の重要性を軽視している可能性があります。


「映像」によるコミュニケーションの特性

ビジネス映像を含む多くの映像コンテンツは、基本的に一方通行の情報伝達手段です。視聴者が映像を見た後に意見を述べたり、制作者と対話する機会があったとしても、その映像自体は一方的に視聴されることが前提となっています。

優れたビジネス映像は、一度の視聴で視聴者を意図した方向に導く力を持っています。これを実現するためには、映像のシナリオが視聴者の心理や行動パターンを深く理解し、予測していることが必要不可欠です。人間の心理プロセスは複雑で、新しい情報に接したとき、共感と反発を繰り返しながら、時に立ち止まって考え、想像力を働かせて理解を深めていきます。

効果的なビジネス映像のシナリオは、この心理的な揺れを予測し、さらには意図的に引き起こすような仕掛けを組み込んでいます。これにより、視聴者はより深い共感を経験し、最終的には共通の「納得」に至り、望ましい「行動」へと導かれるように設計されているのです。


映像の影響力と倫理的考察

このような映像の力は、時として「洗脳」に近い効果を持つ可能性があります。歴史的に見ても、例えばナチス・ドイツ時代のプロパガンダ映画は、映像メディアの強力な影響力を示す典型的な例です。これらの映画は、巧妙に構成された映像と物語を通じて、視聴者の感情や信念を操作し、特定のイデオロギーや行動を促進することに成功しました。

このような事例を踏まえると、「映像による一方通行の情報伝達」は単なるコミュニケーションではなく、ある種の「洗脳」や「誘導」と捉えられる可能性があります。この認識は、映像制作に携わる者にとって重要な倫理的課題を提起します。映像には視聴者をミスリードする潜在的な危険性があり、この力を認識し、責任を持って扱うことが制作者には求められます。


映像の社会的責任と可能性

しかし、映像の影響力を否定的な側面からのみ捉えるのは適切ではありません。映像には人々の理解を深め、共感を育み、社会をより良い方向に導く力もあります。多くの映像制作者は、「映像は人の幸福に寄与するものであるべきだ」という理念を持って制作に取り組んでいます。


  1. 正確性と公平性:提供する情報が正確で、偏りのないものであることを確認する。

  2. 透明性:映像の制作意図や背景を明確にし、視聴者が批判的に考える余地を残す。

  3. 多様性の尊重:様々な視点や意見を取り入れ、一面的な描写を避ける。

  4. 社会的影響の考慮:映像が社会に与える可能性のある影響を慎重に検討する。

  5. 倫理的ガイドラインの遵守:業界や組織の倫理基準に従い、必要に応じて外部の意見を求める。


映像コミュニケーションの未来

映像によるコミュニケーションは、その一方通行性や強い影響力ゆえに、従来のコミュニケーションの定義に完全に当てはまるとは言い難い面があります。しかし、その力を適切に活用すれば、情報伝達や意識啓発、社会変革の強力なツールとなり得ます。

今後、テクノロジーの発展に伴い、映像コミュニケーションはさらに進化していくでしょう。バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)などの技術は視聴者との「対話」的要素を強化する可能性があります。また、インタラクティブ映像の発展により、視聴者が内容に直接影響を与えられるような新しい形態のコミュニケーションが生まれるかもしれません。


このような技術の進歩は、映像によるコミュニケーションの可能性を広げると同時に、新たな倫理的課題も生み出すでしょう。例えば、より臨場感の高い映像体験は、現実と虚構の境界をさらに曖昧にし、視聴者の認知や判断に深い影響を与える可能性があります。

したがって、映像制作者には、技術の進歩に伴う新たな可能性と責任を常に意識し、倫理的な判断力を磨き続けることが求められます。同時に、視聴者側にも、メディアリテラシーを高め、批判的思考を養うことが重要になってきます。


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