カタチのあるものの商いが羨ましい
カスタムメイドのソフトウェアというのは、とにかく販売する時点で商品が無いので、買う側も売る側も、互いに相手が脳裏に描いている「商品(最終形)」を想像するしかありません。
コンピュータソフトであれば、要はシステムなので、インプットに対して期待したアウトプットが出てくれば基本的にOK。「要件定義書」で定義した要件が満たされていれば、ひとまず買い手は受け取らざるを得ません。
こんなつもりじゃなかった
ところが映像コンテンツ、動画コンテンツというものは、どれだけ要件を満たしていようが、買い手の担当者が「これ嫌い」と思えば、なかなか納品に至らないという事態が起こります。僕も若き日、BtoB映像制作業界での仕事を始めた頃は、よくこの壁にぶつかりました。経験を積んでくると相手の想像していることが、概ね予想できるようになり、制作プロセスの折々で軌道修正しながら、担当者、担当部署、その企業の「お好み」に合わせながら、同時に目的要件を満たすことが上手くできるようになりました。
BtoCはほんとうに難しい
BtoBの場合は相手が企業、組織なので、平均的な感性での評価で判断してもらえるように、担当者個人ではなく、組織に対して都度承認を得ながら進めるよう、事を上手く運ぶのがBtoB映像制作会社の要諦です。しかし、BtoCの仕事は私人としの相手個人が取引相手ですので、最初に合意して定義した要件さえも後回しにして、「お好み」を申し付けられる、しかも少しずつ言うことが変わっていく・・・なんてことも大いにありますので、これはたぶん、どれだけ経験を積んでも解決法が見つからないのではないかと思います。
さて、「よくあるすれ違い」の事例をいくつか紹介していきます。
BtoB動画制作行程で起こるお客様とのすれ違い・事例1
「用語の定義・前提が違う」
これは、とてもよくある出来事です。私たちはこの世界で生きてきていますから、業界外の人たちが私たちが使う用語について、私たちと異なる理解をしていることを概ね知っていますが、ときどき思いも寄らない事件が起こります。
「周年映像」
会社創立50周年とか、開業100周年という節目には、多くの企業がそれを記念して式典やパーティを開催し、同時に社史や記録映像などを制作します。「周年映像」と言われれば、私たちはまず「社史を振り返り、現在の会社を紹介し、未来を語る」というのが定番中の定番と考えます。
しかし、周年事業となれば「社史の映像版」以外にも、「周年式典会場で放映するオープニング映像」「周年式典会場で放映する会社紹介」「周年式典会場で放映する会社のビジョン」「周年式典の記録映像」など、何種類もの細分化したコンテンツが必要になる場合もありますので、我々の業界ではドル箱行事ではあります。
まず、どれをつくりたいか
もちろん、上記のバリエーションについてご説明して、このうちどれを制作なさりたいのか伺います。その時のご要望は「周年動画をつくりたい」「尺はせいぜい5-10分」「明るい会社のイメージを伝えたい」とおっしゃるので、「周年ということでしたら、普通はまず、これまでの会社の歴史を振り返るのですが、社歴100年ともなりますと、30分を超えるような長尺になることもあり、ご希望の尺に抑えるには「出来ごと」を整理する必要があります。経営層の方々の承認を得るのが大変な作業になるかも知れません」と申し上げると、「それはなんとかします」とのこと。「では他社で類似の映像が公開されていないか、探してみます」と席を辞しました。
帰社後、YouTubeでサーチしていくつかの好適事例を見つけ出し、メールでリストをお送りしました。
ところが、返信がちっともいただけません。お忙しいのかなと思い、しばらくは控えていましたが1週間経ってもメールは来ません。で、電話をしてみました。
ご本人がお出になりました。開口いちばん
「ぜんぜん違います。こういうのお得意じゃないのですね。もういいです」ガチャン。
周年動画とは?
僕は社歴を短く振り返った後、現在の会社案内+ビジョン、しかも10分以内のコンパクトな内容、で見つけたサンプルをお送りしたのですが、ご担当は、とくに社歴を振り返るというものではなく、今の会社のイメージアップになる映像を作りたいと思っておられたようです。
つまり「周年を期に制作する企業PR」ということだったのだと、自分の至らなさを反省しました。しかし、その後完成した動画がサイトに上がって来ないところを見ると、あの計画は実現しなかったのでしょうか。
BtoB動画制作行程で起こるお客様とのすれ違い・事例2
「修正」と「変更」
撮影を終え、編集ができると、いちどその段階で「試写」をします。未だ音楽やナレーションを挿入していない段階ですが、ファーストインプレッションは大事ですので、最近では仮に音楽を入れ、ナレーションは自分の声を吹き込んで、なるべく完成形に近い形でご覧いただくようにしています。
「編集」は予め承認を得ているシナリオに沿って行います。ですので、シナリオ通りに編集してあれば問題ないはずなのですが、試写をすると必ず「ここのテロップを、●●に修正してください」というような注文を頂きます。
「わかりました、テロップの変更ですね」「はい、修正お願いします」というやりとりは、実際にはしませんが・・・。
シナリオの変更は修正ではありません。あくまで変更ですので、建築で言えば「設計変更」、コンピュータプログラムで言えば「要件定義書の変更」で、本来ならば追加料金が必要なのですが、あまり尺定規なことも言いにくいので、ひとまず「わかりました」と黙って変更に応じます。ところが、これに味をシメて「じゃあついでに、ここも・・・」と言われるということが、往々にして発生しますので、要注意です。
修正は弊社の瑕疵に対して行う
シナリオに書かれていることを間違えて行ったことを直すことを「修正」。これはどうみても制作会社のミスですから、無料で素早く修正する義務があります。
変更はお客様の意思変更
シナリオに書かれていることを変えるわけですから、制作会社に非はありません。それによって発生する作業やコストは本来はお客様が追加負担する、というのが正論です。
でも、工程が見えない
我々は、こうしたことが起こることは百も承知していますから、必ず予めお客様に説明してご納得いただいてから、制作作業に入ります。しかし、撮影、録音以外の制作工程にお客様が立ち会うことは少ないので、目に見えていない作業プロセスは、どうしても想像が及ばず、作業者の手戻りの痛手は、なかなかご理解いただけません。
「一緒に制作している」が大事
「変更による手戻り」は、見積段階でこうした費用も積算に含めている、というのが最近です。そもそもお客様にシナリオの段階で最終形の映像を想像して、その可否を決めてください、というのが無理というもの。
お客様にこの「修正」「変更」の違いをわかっていただきたかったら、「お客様に、できるだけ制作プロセスに参加してもらう」しかないと思います。「一緒に制作している」ということで、作品に対する愛着も生まれ、その評価も違ってくるのですから。
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