会社や商品を宣伝するためのビデオシナリオを作成する時の、効果的で理想的なプロセスを、企画構想から執筆、完成まで、段階に分けて考えてみます。
1.目的とターゲットの明確化
まず始めに、ビデオの目的とターゲット視聴者を明確にします。これは全ての基礎となる重要なステップです。
目的:ブランド認知度の向上、商品の販売促進、企業イメージの改善など
ターゲット:年齢層、性別、職業、興味関心などの属性
例えば、20代から30代の女性向けに新しい化粧品ラインを宣伝する場合と、50代以上のビジネスマン向けに金融サービスを紹介する場合では、アプローチが異なります。
2.主要メッセージの決定
ビデオを通じて伝えたい主要なメッセージを1〜3つに絞ります。これらのメッセージは、視聴者の記憶に残るキーポイントとなります。
例:
「自然由来の成分で肌に優しい」
「使いやすさと高機能を両立」
「業界最安値の手数料で資産運用をサポート」
3.ビデオの形式と長さの決定
目的とターゲットに基づいて、最適なビデオ形式と長さを決定します。
形式の例:
実写(インタビュー、デモンストレーション)
アニメーション
モーショングラフィックス
製品紹介
ストーリーテリング
長さは通常15秒から3分程度が一般的ですが、視聴環境によっては10分を超えるものもあり得ます。プラットフォームや目的によって異なります。例えば、YouTubeの広告は5秒でスキップ可能なため、冒頭5秒で視聴者の興味を引く必要があります。
4.アイデアのブレインストーミング
クライアントの担当者や代理店のAE、CDらで構成するクリエイティブチームでブレインストーミングを行い、ビデオのコンセプトやアイデアを出し合います。この段階では、奇抜なアイデアも含めて自由に発想することが重要です。
アイデア出しの方法:
マインドマッピング:アイデアや情報を視覚的に整理し、関連付けながら話し合う
SCAMPER法:典型パターンに沿った質問によってアイデアを導き出す方法
強制連想法:いわゆる逆転の発想
5.ストーリーボードの作成
選択したアイデアをベースに、ビデオの大まかな流れを視覚化するストーリーボードを作成します。これは、各シーンの簡単なスケッチと説明文で構成されます。ただし、シナリオ執筆と並行で行うことが通例です。
ストーリーボードの要素:
シーンの順序
各シーンの主要な視覚要素
ナレーションやダイアログの概要
音楽やサウンドエフェクトのアイデア
6.アウトラインの作成
ストーリーボードを基に、より詳細なアウトラインを作成します。これはシナリオの骨格となり、各セクションで伝えるべき情報を整理します。ただし、シナリオ執筆と並行で行うことが通例です。
アウトラインの構造:
オープニング(注目を集める)
問題提起または状況説明
解決策または製品・サービスの紹介
メリットや特徴の説明
証言や事例(可能な場合)
コールトゥアクション(行動喚起)
7.第一稿の執筆
アウトラインを基に、シナリオの第一稿を書き始めます。この段階では、完璧を目指さず、アイデアを文章化することに集中します。
シナリオ執筆のポイント:
視覚的な描写を含める(「見せる」ことを意識)
簡潔で明確な言葉を使用
ターゲット視聴者に合わせた話し方やトーンを採用
感情的な要素を取り入れる(適切な場合)
テクニカルな情報と感情的なアピールのバランスを取る
8.ビジュアル要素とナレーションのバランス調整
映像とナレーションが互いに補完し合うよう調整します。全てを言葉で説明するのではなく、視覚的に伝えられる部分は映像に任せ、ナレーションはそれを補足する形にします。
リズムとペースの確認
シナリオ全体のリズムとペースを確認します。情報の密度が高すぎたり、逆に間延びしている部分がないか確認し、適宜調整します。
ペース調整の方法:
重要なポイントの前後に短いポーズを入れる
テンポの変化をつける(ゆっくり→早く、など)
視覚的な切り替えと音声のタイミングを合わせる
9.推敲と編集
第一稿を何度も読み返し、改善点を見つけて修正します。この段階では、以下の点に特に注意します:
不要な言葉や情報の削除
より強力で説得力のある表現への置き換え
文法やスペルのチェック
全体の流れの自然さ
10.フィードバックの収集
シナリオの草稿を代理店・クライアント(マーケティングチーム、製品開発者、経営陣など)に共有し、フィードバックを収集します。多様な視点からの意見は、シナリオの質を大きく向上させる可能性があります。
11.法的・倫理的チェック
特に重要なのが、法的・倫理的な観点からのチェックです。誇大広告や虚偽表示、著作権侵害などがないか、慎重に確認します。必要に応じて法務部門や外部の専門家に相談することも検討します。
12.音楽と効果音の検討
適切な背景音楽(BGM)と効果音(SE)を選択し、シナリオに組み込みます。音楽や効果音は、ビデオの雰囲気や感情的なインパクトに大きく影響します。ただし、このプロセスは編集後におこなうことが通例です。
考慮すべき点:
ブランドイメージとの整合性
ターゲット視聴者の好み
著作権の問題(ライセンスの取得が必要か)
13.タイミングの調整
各シーン、ナレーション、視覚効果のタイミングを細かく調整します。これにより、ビデオ全体の流れがスムーズになり、視聴者の理解と没入感が向上します。ただし、通例では編集時にディレクターとエディターが行う作業です。
14.コールトゥアクションの強化
ビデオの最後に置くコールトゥアクション(CTA)を再確認し、必要に応じて強化します。CTAは視聴者に次のアクションを促す重要な要素です。
効果的なCTAの例:
「今すぐ公式サイトでチェック」
「限定キャンペーン実施中。詳細はプロフィールのリンクから」
「無料サンプルを請求する」
15.最終確認とブラッシュアップ
完成したシナリオを音読し、耳で聞いた時の自然さやリズムを確認します。この段階で気づいた小さな違和感も修正し、最終的な磨き上げを行います。
16.制作チームとの共有
完成したシナリオを制作チーム(ディレクター、カメラマン、編集者など)と共有し、ビジョンや意図を明確に伝えます。必要に応じて、視覚的なイメージボードや参考動画なども用意すると、より正確にイメージを共有できます。
17.撮影・制作段階でのフレキシビリティ
実際の撮影や制作段階で、予期せぬ状況や新たなアイデアが生まれる可能性があります。シナリオライターは、これらの変更に柔軟に対応できるよう準備しておく必要があります。
18.編集段階での調整
編集段階で、シナリオの一部を変更する必要が生じることもあります。例えば、尺の調整や、より効果的なシーンの並び替えなどです。シナリオライターは編集者と密に連携し、必要に応じて修正を加えます。
19.フィードバックと改善の継続
完成したビデオの効果を測定し、視聴者の反応を分析します。得られたデータやフィードバックは、次回のビデオ制作に活かします。継続的な改善サイクルを確立することで、より効果的なビデオ制作が可能になります。
結論
効果的なビデオシナリオの作成は、単なる文章作成以上の総合的なプロセスです。目的とターゲットの明確化から始まり、クリエイティブなアイデア出し、構造化された執筆プロセス、そして多角的な視点からの改善を経て完成に至ります。また、制作チームとの密な連携や、法的・倫理的な配慮も欠かせません。
上記のプロセスは、制作期間や予算などの制約によって実際に実行できる例は少ないのですが、理想的にはこれらのプロセスを丁寧に踏むことで、視聴者の心に響き、目的を達成する効果的なビデオを制作することができます。同時に、各プロジェクトから学びを得て、次回のシナリオ作成にフィードバックを活かすことで、スキルと効果の継続的な向上が期待できます。
ビデオ広告の世界は常に進化しています。最新のトレンドや技術を把握しつつ、基本的なストーリーテリングの原則を大切にすることで、時代に合った、しかし普遍的な魅力を持つビデオシナリオを作成することができるでしょう。
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