「リクルートビデオ」から「採用動画」へ
かつて「リクルートビデオ」や「企業ビデオ」と呼ばれていた採用動画は、時代とともに大きな変容を遂げてきました。ひと昔前、企業ビデオ・ビデオパッケージ(VP)は平均して10分程度の尺を持っていました。その当時、会社案内ビデオの制作と同時に、企業情報に採用情報を少しつなげたものを「リクルートビデオ」と呼んでいたのです。
しかし、あの頃は、そうした「建前」の情報以上に、会社の雰囲気や社風、経営者や先輩社員の生の姿が知りたいという学生たちのニーズが高まっていきました。単なる「会社案内」の域を超えて、自分にとって最適な企業かどうかを判断するための重要な情報を得たいと考えていたのです。
リアリティの追求
そこで、企業側は新しい手法を取り入れるようになりました。セミドキュメンタリー形式で職場の様子を撮影するのです。ハンディーカメラの登場により、人の自然な様子をより撮影しやすくなったことで、これがより現実的な映像表現を可能にしたのです。これまでは大がかりな機材とスタッフが必要だったため、不自然な場面しか撮れませんでしたが、手軽なハンディーカメラの登場によって、本来の姿を捉えられるようになったのです。
学生たちにとっては、福利厚生や給与といった一般的な情報よりも、人間関係や研修制度など、自分に合った企業かどうかを判断する上で重要な情報を得られるようになりました。それまでの「建前」の情報では、企業の本質的な部分が見えにくかったのが、こうした新しい手法によって大きく改善されたのです。
採用動画は短尺化へ
そしてこの流れは今日まで続いています。動画の長さは3分以内というように短縮される傾向にありますが、それでもシネマティックな映像表現を用いて、会社の雰囲気や社風を効果的に伝えようとしています。つまり、単なる「会社案内」ではなく、企業の人間性や文化を感じ取れる、リアリティのある映像コンテンツに進化してきたのです。
かつては「リクルートビデオ」と呼ばれ、会社の表面的な情報を提供するものでしかありませんでした。しかし現在、採用動画は学生や求職者の目線に立ち、自社のリアルな様子を伝える必要不可欠な存在へと進化を遂げてきたのです。企業にとって、採用動画は単なる「会社案内」ではなく、自社のアイデンティティや文化を効果的に発信するための重要なツールなのです。
採用環境は買い手市場から売り手市場に
こうした変化の背景には、2000年代半ば以降の新卒採用をめぐる環境の変化があります。かつては、企業側が求める人材を中心に採用が行われていました。しかし近年では、売り手市場の様相を呈するようになり、学生や求職者の側が企業を選ぶ傾向が強くなってきました。そのため、企業は自社の魅力を効果的に発信し、優秀な人材を確保する必要に迫られているのです。
このような背景から、採用動画には次のような役割が期待されるようになってきました。
企業の文化や価値観を具体的に示す 企業理念や行動指針といった抽象的な情報だけでは、実際の企業の雰囲気をイメージしにくい。採用動画では、社員の生の声や職場の様子を通して、企業の文化や価値観を生き生きと伝えることができる。
求職者の関心事に応える 福利厚生や給与水準といった一般的な情報だけでは不十分で、研修制度や人間関係など、自分に合った企業かどうかを判断するための情報が求められている。採用動画では、学生や求職者の関心事に沿った情報を提供できる。
企業ブランディングに寄与する 企業の魅力を効果的に発信することで、優秀な人材を引き付けるだけでなく、企業ブランドの向上にも寄与する。会社の風土や社員の姿勢を具体的に示すことで、企業のイメージアップにつながる。
採用活動の効果を高める 従来の紙媒体の会社案内では伝えきれなかった企業の実態を、動画ならではの臨場感ある表現で示すことができる。採用活動の効果を高め、優秀な人材の確保につなげることができる。
このように、採用動画は単なる「会社案内」ではなく、企業の本質的な部分を効果的に伝えるための重要なコミュニケーションツールとして進化してきたのです。
建前から本音へ
その際、単に企業の「建前」を伝えるのではなく、実際の社員の生の声や職場の雰囲気を丁寧に捉えることが不可欠です。ただし、企業としてはあくまでも良い意味での自社の姿を伝えたいため、セミドキュメンタリー的な手法を用いつつ、シネマティックな演出によって、企業の魅力を最大限引き出すことが重要になってきます。
つまり、採用動画は企業文化やアイデンティティの伝達手段としての性格を強めており、優秀な人材を惹きつける有力なツールになっているのです。ますます多様化する就職活動のなかで、採用動画はこれからもさらなる進化を遂げていくことが期待されています。
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