「現場」と言っても撮影現場のことではなく、企画打ち合わせから始まり、シナリオ、撮影、編集、録音、納品に至る工程についての、それぞれのリアルな現況について、現在の傾向と対策を列挙してみます。今回はまず「企画段階」です。
VPと呼んだ頃
かつて、テレビや映画館で放映されない、企業や諸団体が一般や特定の人たちに向けて制作する映像全般を「VP」と呼んでいました。ビデオパッケージの略語です。大きな括りでは博物館の展示映像や販売用のVHSビデオ(ハウツー物や教育プログラムなど)もVPでした。1980年代までそれらは、劇場映画やテレビ番組を制作をするプロダクションの副業、あるいは映画や番組だけでは食べていけないスタッフたちの、アルバイト的な仕事でした。映像制作機材が極めて高額で、それらを扱うことができる技術者や演出家はごく限られた人でしたから、たとえ映像を発注するクライアントであっても、テーマと目的、予算以外は製作者たちの「言いなり」であるのが常態のようなあり様でした。企画もシナリオもポンと出して、ハイ撮影!でした。
VP制作業の確立
バブル経済(1985-1991)下では広告代理店やテレビCM制作が花形ビジネスとなり、プロダクションはCM制作を通じてできた企業とのつながりを活かして、VP制作にも力を入れるようになり、モーターショーなどの華やかな国際展示会のための壮大な展示映像なども競って制作し、広告代理店も交えたクライアントワークの常識的な商取引(クライアントの目的に合わせた提案や、意向を汲む制作プロセスなど)やコミュニケーション習慣が整備されたのがこの時代でした。
動画の台頭
しかし、デジタル化、インターネット通信の普及に伴って「ビデオ」という言葉が使われなくなるのと時期を同じくしてVPという呼び方はされなくなり、入れ替わるように「動画」という括りが登場してきました。それ以前にカメラや編集機材が低価格化、操作が平易化したことで、動画は誰もが扱うことができるものとなり、発表する場もインターネット世界に無限に広がっていることから、映像制作は特別な技能ではなく、動画は誰でもつくることができるものと認識されるに至りました。同時に映像制作業はにわか動画制作者の参入によって、かつて整備された商取引・商習慣は混沌とし、映像制作者はクライアントの「御用聞き」になりつつあります。
最近の傾向
企業のご担当者も自身のイメージをカタチにしたいと考える方が増えています。
先日、見知らぬ、しかし名を知られた老舗のプロダクションのプロデューサーから、あるクライアントの仕事で暗礁に乗り上げていて、編集を手伝ってくれないか?と電話をいただきました。クライアントの担当者が自身で企画を考え、シナリオもつくったそうですが、出来上がりがどうもイメージに合わない・・・ということで、短期間に何度も全編再編集を繰り返しているとのこと。すぐにピンときました。たぶんこのプロダクションはきちんと企画・シナリオ通りに編集しているのだけれど、出来上がるとイメージに合わない!と言われている・・・。これは、もともとクライアントから提示された企画・シナリオ・予算が間違っているに違いないと。間違っている・・・というのは、担当の方がつくった企画・シナリオ・予算が彼(担当の方)の頭にあるイメージと大きく隔たっていることを指しています。プロダクションは企画・シナリオ・予算からそれらに相応しい演出・編集・作画技法でイメージして、ベストパフォーマンスを産もうと努力しますが、自ずと限界がある中での作業となります。担当の方のイメージはそれを遥かに超えたレベルを想像しているために、生まれている齟齬なのです。
B2B映像のプロデューサーの仕事
この齟齬を回避するために、取り組み初期にとことんイメージの擦り合わせを行い、クライアントの希望イメージと制作予算に乖離があれば、プロデューサーはその案件は破談にする覚悟が必要です。
プロは材料(映像素材)とシナリオ・予算が決まっていれば、それ以上にもそれ以下にもならないことを知っています。小手先の編集技法で良くなる、イメージに合う、ということは断じてありません。クラアントのご担当は、そのことがわからないから「ひとまず編集してみて」と言いうのは仕方がないことです。しかし言われるがままに何度編集しなおしても、永遠に終わりは来ません。思い切って妥協するか、予算を上げるか、企画自体を替えるしかないのです。
映像は映像で決まる
映像の本質は1カットの画像。その連続です。その1カットの画像がシナリオの意を表す力を持っていないなら、モーショングラフィックを重ねようが、奇抜なトランジションを使おうが、ダメなものはダメです。いくらデジ1でシネマチックに撮ったところで、狙ったことが映っていなければカッコよくないのです。
対策
VP制作(あえてVPと呼びます)というクライアントワークが「御用聞き」になった今であっても、いや今だからこそ、映像づくりのプロである我々は、クライアントに「ダメなものはダメ」と言える勇気を持つべきであり、それに代わる方法を提示する知見を豊富に持っているべきだと思います。お客さん(クライアント)に本当に信頼され、期待される映像制作マンなら、そうすべきだと僕は信じています。御用聞きなら、言われたことにはすべて応える方法を持っていたいと思います。それを出すか出さないかは予算と期間次第ですが・・・。
できること、できないことがわかるなら、「ダメなものはダメ」と言いましょう!
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