東京2020夏季オリンピックでは、その運営業者の選定に関して、またまた入札談合が表面化して世間を騒がしています。取引がある大手広告代理店も渦中にあり、「他山の火事」「対岸の火事」として放っておくことができないテーマです。このブログでもときどき類似テーマで書いています。しかしながら、これほど毎度毎度問題化していながら、ちっとも根本的な対策が講じられないことが、この問題の本質的で根深い事情を示しているように思います。つまり、入札制度が機能不全であろうと、それにより法的な裁きを受ける人が頻出しようと、この制度に深く関わる企業と社員は、入札が「未熟な制度」だからこそ受けられる恩恵が余りあるのでしょう。ずばり書けば、上手くやれば褒賞もの。大企業サラリーマンの出世手段として「談合」は垂涎の宝刀。下手をすれば前科者。でも、生きるか死ぬかであろうと、この宝刀を捨ててしまうような働き掛け(入札制度の改善)など、誰もしないのでしょう。
絵が描けない発注者
なぜこうした案件(人の働きや技能といった無形価値が大半を占める業務)で談合がおこるのでしょうか
①発注する側に「絵がない」ので、受注側が「絵を描く」必要がある
②絵を描く者に対して対価を支払う商習慣が日本にない(あっても対価が安すぎる)
③絵を描いたら、その実施業務を受注しなければ儲からない(随意契約)
④絵が描けない人が発注するので、業務の緊迫度がわからず取り掛かり時期が遅いため、手続きを踏めないこの状況を解決するには、あらかじめ業者を決めて、発注者の大雑把な要望をスピーディに具体的な絵に置き換え、その業者に一任して業務を実行に移すのが、いちばん効率的です。
専門官をおけないならば
建築や情報システムのように、お役所側に専門家がいる分野ならともかく、普段別業務をしている発注担当者が大規模なイベント運営や僕らのような映像制作について、「絵が描けない」のは仕方がありません。しかしインターネットでさまざまな情報が収集できる今なら、1日ネットサーフィンしていれば概ねの状況はわかってきます。ある分野の専門業者をいくつか選んで直接話を聞いてもいいかも知れません。素人ながらも、自分が任された事業(業務)に必要な人や技術、道具設備の規模感をつかみ、その相場を把握しましょう。もちろん「専門業者」に話を聞く際には、きちんとした業務を継続しておこなっていて、ユーザーだけでなく業界内でも一定の評価を得ている業者を見つけるリテラシー能力は必要です。
まずは相場を掴む
お役所内の前例はもちろん参考にし、併せて世間の相場観に照らし、その業務(事業)に割り当てられた予算内で可能だと判断したなら、その予算を「指値」にすればいいでしょう。もちろん、もっと安く可能だと判断したなら、その価格を指値にしましょう。相場よりも安い価格で実施するということは、必ず何かが省かれるか、人件費を抑えることにつながります。企業努力とよく言いますが、それは大半の場合、人件費が省かれることを指します。日本の平均給与が世界に引けをとる理由は、もしかしたら入札制度による安値受注も寄与しているかも知れません。中小零細企業が競争入札で受注するには、入札額を抑えるしかありません。その結果、そこで働く社員の給与は低く抑えられます。大企業だからお金がかかる、中小企業だから安くできる・・・おかしいですよね?日本の平均給与をアップさせたいなら、まずは公共事業が率先して中小企業に適正な価格転嫁を促すのが筋ではないでしょうか。
指値でプロポーザル提案を受ける
「人の働きや技能といった無形価値が大半を占める業務」は、実施されるまで目に見えまえんから、企画段階では予算に合わせていくらでも仕様内容を調整できます。したがって予算見積額が安い業者を選べば、ほぼ必ず手薄な業務遂行となり、低賃金で働く人たちが増えるのが道理です。上記で調べた指値を上限として、その範囲で何ができるのか、どういう特徴を持たせられるのかといった提案を受け、その内容とコストを比較して業者選定するのが、結果コストパーフォーマンスが高く、しかも役所の予算も増加しません。価格競争力を持たせようと、低く見積もった見積書を提出した業者を選択すれば、ほぼ必ず実施段階になって仕様に変更を入れざるをなくなり、結局追加予算が必要になります。
要点
①発注者はその業務に関する情報を集め、可能な限りその業務に精通し、事業の目的と予算を明確にする
②入札業者に事業の目的と予算を伝え提案を受ける
③最も適した提案をした業者を選出し、具体的な計画づくりに入る
④選ばれた業者は、予算の範囲内で可能な限り発注者の要望を叶える企画(仕様)と見積書を提出して業務に入る
極論すると、こうした目に見えない、形のない成果物の取引は、相手を信頼するしかなく、その前提となるのは「性善説」です。
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