フェイク画像やディープフェイク動画が問題になっている今、今回のテーマはまさにフェイクを告白する、映像クリエーターがまれ(ときどき?)にやるインチキ技です。視聴者には捏造した映像を見せるので、あまり褒められたことではないけれど、「問題を解決するため」に誰も傷つけない範囲で行われているものです。
(1)水平反転
連続するカットで車が走るシーンを編集したのだけれど、1カットだけ車が走る方向が矛盾する。というような時にそのカットの画面の左右を反転するという方法があります。ただし、車の運転席の左右、ナンバー、ボディに書かれた文字なども反転してしまうため、そうしたものが判読できないという条件がつきます。背景が有名な土地ですと、知っている人には「?」が点きます。道路脇の道標や看板の問題もありますので、適用条件が厳しいものです。
編集の繋がりで方向性が悪いという問題は、何人かのインタビューが連続する時にも起こりがちです。その解決のために人の画像を左右反転すると、それは本人が鏡で見ている像になるのですが、本人がそのことに違和感を感じるかどうかはわかりません。多くの人は気づかないでしょう。けれども、自分だけ左右反転しているということは、ご本人にしてみれば気分が悪いかも知れませんので注意が必要です。
(2)再生スピードを変える
演出的な意図でスローにしたり、何倍速とかにするという手段を使う時は、視聴者にもその演出意図がわかるように行いますから問題にならないと思います。しかし、実は演出意図としてではなく、困った時にも結構この方法は多用しています。撮影素材の尺(時間・長さ)が足らない時です。通常カメラマンはどんな被写体を撮る時でも1カット10秒位以上はRecしますが、その1カットの中で使えるところが2秒しかないという場合があります。あるいはその中のたった2秒だけれど、意図を非常にうまく捉えている部分があるのでぜひ使いたいといことがあります。ナレーションとの兼ね合いでここは4秒は欲しいというような時、2秒をスロー再生して4秒を埋めるです。映っている被写体の動きに違和感が生じないならば、視聴者はこのことに気づきません。ドキュメンタリー調の作品では、こういうことは割と頻繁に起こります。今は通常30コマ/秒で編集しますから、私は撮影は必ず60コマ/秒で撮るようにお願いしています。
(3)支障があるものを消す
これは明らかなフェイクですので、私はできるだけやらないようにしていますが、クライアントあっての仕事ですから、クライアントの要望があれば行います。ただし、そのことで視聴者が事実を誤解して、誰かを傷つける恐れがあることに関しては行いません。撮影の時にクライアントに立ち会ってもらい、フレームに入りそうな、違和感あるものはその場で避けて撮影しておくのが原則です。
画面から消して欲しいものの代表格が個人情報。デスクに置かれたモニターに映る名簿とか、掲示板に掲げられた社内告知だったりします。路傍の看板や屋上の派手なネオンなども目立つものとして消して欲しいという要望を受けます。ただし、この映像から何かを消すという編集作業は、マスクを作って隠す必要があり、その対象が画面の中を動いていると難しくなり、さらにその境界線が曖昧だと、さらに困難になります。そういう場合はボカシとかモザイクという方法を提案することがありますが、明らかに何かを見せたくないという意図を表していますので、視聴者は決して愉快な気持ちにはならないので避けたい方法です。
(4)画面の中をズームやパンする
UltraHD(4K)は解像度が3,840×1,920ピクセルありますから、編集した後の完成版をFHD(1,920×1,080ピクセル)にする場合、撮影素材を200%まで拡大しても画像は鮮明に見られます。ですから、編集によって画面の中をズーミングしてアップしていったり、引いていったり、左右、上下にパンニングすることができます。撮影時カメラをFIXして、レンズはいっぱいに広角にして収録しておけば、編集意図に合わせて後でカメラワークができてしまうわけです。撮影終了時間が迫っているけれど、まだ環境説明の画像が撮れてない、ということがよくあります。そういう時には高台から見た街の全景や工場敷地の全景などを、1カットだけフィックスで撮っておけば、編集では複数のカットを切り出すことができ、とても重宝な素材になります。
注意点
上記のような行為は悪質なフェイク映像づくりにも応用できる技術ですから、映像制作者はそのことをよく理解して、決して視聴者に事実誤認を与えたり、たとえ一人でも不愉快、傷つけることを行わないことが前提です。
視聴者は、こうした技術があることを知識として頭に入れておけば、実社会での詐欺事件などを未然に防ぐ手立ての一つになると思います。ぜひ覚えておいてください。
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