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動画・映像制作で初めてMAスタジオを使う人へ

Tomizo Jinno

私もディレクターとして初めてVP(ビデオパッケージ)のナレーション録音をした時のことを朧げに覚えています。当時はまだMAという言葉が定着していない頃でした。それ以前にラジオ番組のディレクターをしていたので、録音スタジオという場所には慣れていましたが、映像に合わせてナレーションを録音して、音楽や効果音とミックスするなんていう作業を指揮したことはありませんでしたから、ナレーターさんやミキサーさんに叱られたらどうしよう!?ともうドキドキでした。先輩ディレクターから、いくつかコツを教えてもらったことを覚えています。


現在の世界や東京での最新設備でのMAスタジオ作業の先端的なプロセスは知りませんので、参考になるかどうかわかりませんが、名古屋で動画・映像制作の仕事をする私が考える(あくまで私の流儀です)クライアント立ち合いのあるMA作業のスムーズな進め方を書きます。



①スタジオ・ナレーターの手配


手配の時期


制作プロジェクトがスタートして、すぐにナレーターを誰にするかが俎上に登ることは少ないですが、有名タレント、有名ナレーターを起用することが企画の目玉になっている場合には、早期に納期から逆算した適当な時期にナレーターとスタジオのスケジュールを押さえておくと安心です。

一般的には納期の1週間から3日前くらい、制作期間が短期の場合は、納期の前日営業日までの日程で設定します。もちろん、データ変換や承認プロセスが残っている場合は、その日数を加味します。



手配の順番


まずはクライアントの意向を伺い、ナレーター事務所・タレント事務所に候補者を挙げてもらいます。よく知らない人ばかりの場合は、その事務所の古いマネージャーに相談しましょう。必ず上手い人を紹介してくれます。

「上手い」ということは、MAスタジオで余計な費用を掛けず、クライアントに不安を掛けないために重要な条件だと、私は思っています。

ボイスサンプルを添えて(WEBに上がっていることが多い)3名程度をクライアントに提案して、選んでもらいます。


ナレーターが決まったら、スタジオとナレーターの事務所にスケジュールをあたり、原則的には日時候補を3案程度設定し、クライアントに選んでいただきます。短納期で余裕がない場合は、クライアントのスケジュールを先に伺っておいた方が効率的かもしれません。



スタジオ・ナレーターを予約する時間幅


あくまで私の場合ですが、MAスタジオについてはVPの尺が1〜3分程度であれば1時間、5分程度のVPの場合で1、2時間、10分程度ですと2、3時間を押さえます。若い頃はこの2倍くらいを押さることもありました。

ナレーターは、この半分くらいの時間を伝え、スタジオ予約時間の前に入ってもらうようにしています。




②事前に渡すもの


私の場合、前々日営業日までに以下のものをMAスタジオとナレーター事務所の担当者に渡し準備してもらいます。今はほとんどWEBでデータ送信しています。



MAスタジオ


(1)シナリオ


  • できればナレーションのタイミングがわかるよう、CUE印とタイムコードを書き込む

  • 大きめで視認性が良いフォント(ゴシック系)で、行間を十分にとり、構成の切り目が直感的にわかるようにする



(2)映像・音声データ


  • タイムコード入り動画ファイル

  • 動画ファイルと同一タイムコードで音源種類ごとにトラック分けされている音声データファイル。私の場合、自分で選曲した音源を使用しますので、この時点で貼り付けてある

  • 宅録サービスを利用する場合(立ち合いなし)は、動画画面隅にCUEを示す⚫️を入れることもある

  • インフォグラフィックのような、映像とナレーションを完全に同期させたい場合には、AI生成音声による仮ナレーションを入れておく(この仮ナレーションは作画、編集の時にすでにつくっていることが多い)

  • 渡したデータの概要と注意点、簡単な要望メモ



ナレーター事務所


(1)シナリオ


  • MAスタジオに渡すものと同じだが、発音に注意してほしい単語などには赤字などで書き込み

  • 時間に余裕がある時は、ナレーション録音時のブロック毎に1ページにリフォームします。録音時にページを繰る音を発生させないための配慮です

  • 紙で渡す場合は、ホッチキス止めではなく、クリップで止める(録音時にどうせバラすから)

  • 事前に原稿を渡すことはとても大切です



(2)映像・音声データ


  • MAスタジオに渡すものと同じものに、映像画面にタイムコード表示した動画(音声入り)ファイルを、動画共有サイトにシークレットモードでアップロードして、そのURLを知らせる

  • インフォグラフィックのような、映像とナレーションを完全に同期させたい場合には、AI生成音声による仮ナレーションを入れておく



③録音当日


専門用語が多いナレーション原稿の場合は、スタジオ予約時間30分から15分前くらいにクライアント、ナレーターに集合してもらい、スタジオに併設のラウンジや控室を借りて、読み合わせをします。

この時、専門用語だけでなく、例えば「日本」を「にほん」と読むか「にっぽん」と読むかということなどを、クライアントと相談して方針を決めます。



MAスタジオの構成


MAスタジオはナレーターが座るアナウンサーブースと、調整卓・スピーカー・TVモニターなどがある調整室に分かれていて、ナレーターはアナブースに、調整室には調整卓やモニターに向かって座るミキサー(MA技師)の後ろにあるテーブルを挟んで、クライアント、制作会社スタッフが座ります。



(1)スタッフ紹介


ナレーターがアナブースに入る前に、プロデューサーないしはディレクターがクライアントを紹介し、その後でナレーター、初対面の制作会社スタッフ、そしてミキサー、ミキサー助手を紹介します。

ここでお茶出しをすると場が和みます。



(2)読み方打ち合わせ


事前に読み合わせしてない場合は、ここでナレーターから読み方について質問がある部分を指摘してもらい、ディレクター、クライアントが相談の上、回答します。この時、クライアントからも用語の変更や微細な原稿修正の依頼があることもありますので、対応できる場合は原稿を修正します。修正が困難な場合は、次善の策を相談します。読み方について合意ができたら、ナレーターにアナブースに入ってもらいます。



(3)マイク・機器調整


ミキサーとナレーターで、マイク・音量などを調整します。その間、ディレクターは、これからの録音の進め方を簡単に説明します。(何度か経験のあるクライアントの場合、無用)


ディレクターのためにある機器
ディレクターのための機器

(4)ディレクターのためにある機器


クライアント、ディレクターなどが座る席の前にあるテーブルには、ディレクターが使用する①小型のモニター、②トークバックマイク(スイッチつき、大概の場合白いボタン、押してる間だけナレーターがつけるヘッドフォンにこちらの音声が聞こえる)、③キューボタン(大概の場合赤いボタン)が置いてあります。

クライアントには、原則的にミキサーの前面にある大型のモニターを見ていてもらいます。



(5)リハーサル


ナレーションの分量にもよりますが、概ね1分程度ごとにブロックに分けて録音していきます。まずは、録音せずに練習します。(手慣れたナレーターの場合「練習本番」と言って、いきなり録音することもあります)

その練習を聞いていて、問題がないかどうかクライアントに確認し、修正があれば発音などを修正して、もういちど練習、あるいは本番録音に移ります。

この作業はモニターに映る映像を見ながら行いますが、音楽や効果音なども少し音量を落として聴きながら行うのが通例です。ただし、この段階ではこれらの音は聞いているだけで、ナレーション音声とミックスして録音しているわけではありません。なお、仮ナレーションが入っている場合は、耳障りなときは消音します。



(6)本番


調整卓の前とディレクターの前のモニター画面には「タイムコード」が表示されていますので、ディレクターはこの時分秒と映像のタイミングをみながら、シナリオ(ナレーション原稿)に記されたCUE印ごとにキューボタンを押して、ナレーターに合図をすることで、映像とナレーションのタイミングを合わせて録音していきます。

ナレーション原稿のCUE印を、どの程度の文字量、文章量の頭につけるかは、あくまでナレーターが読みやすいことを最優先して考えるべきです。まずは、正確に映像のタイミングと合わせたい文章の頭にCUE印をつけます。そして自分で何度も読んでみましょう、ゆっくりと。少しでも詰まりそうだったら必ずタイミングや文字数を修正しましょう。録音時にリハーサル(練習)をしてみて、間が詰まってしまうような場合には、CUEを省略して「一連でお願いします」ということもよく行います。



(7)キューボタンの押し方


なお、キューボタンは読み始めて欲しいタイミングの1、2秒前に押さないと、ナレーターは急には喋り始められません。その時間を加味して早めにボタンを押してください。また、キューボタンを押すとアナブース側では、一般的に押している間だけ赤いランプが点灯します。「トン」と押しただけですと、点灯時間が短いため見落とすことがありますので、ボタンは必ず1秒程度、しっかり押すよう心がけてください。


なお、ナレ録時のディレクターは、原稿と映像をしっかり見合わせて、読み間違いや発音の可否、タイミングなどをチェックっしながら、気づいた点があれば「タイミングを10フレーム遅らせる」とか、「発音、要チェック」とかを素早くメモしなくてはなりません。次のキュータイミングが来る前にそのチェックを終えないと、キューが遅れてしまいます。編集時に何度も見た映像だから、キュータイミングは頭に入っている自信はあるとは思いますが、少しでも慌てるとキューを逃してしまうものです。キューのところにはタイムコードを記入しておくことをお勧めします。また、どうしても頭や手が追いつかなくなった時は、躊躇なく録音を止めて、少し前から録り直しましょう。



(8)プレイバック


ブロックごとにリハーサル(練習)→本番を繰り返して、全編を録音し終えたら全編を再生してチェックを行いますが、最大限の慎重さが求められる案件では、ブロックごとに再生して確認の上、修正を要する場合すぐに録り直す、と言うやり方をする場合もあります。

チェックをしたら、まずディレクターが気になった点をすべて申し立て、次にクライアントが申し立てます。場合によってはミキサーも意見を言います。それらについて双方で意見を交わし、同意すれば、その部分の再録音を行います。

再度、通しでチェックして問題がなければ、ナレーターの仕事はこれで終わり、挨拶をして先に帰ってもらっても構いません。帰ってしまうともうナレーションの修正録音はできませんので、クライアントには念を押してください。



(9)MA作業


この時点では、ナレーション、音楽、効果音、撮影時の音声などは別々のトラックに入っていますので、音量を調整しながらミックスダウンします。この時、ナレーションや音楽、効果音のタイミングが映像と合わないなどの場合は、その位置を変更することもできますが、映像の尺にハマらない場合は、音声データを削るなどをしなくてはなりません。MAスタジオでは映像の再編集はできませんので、もし映像の修正をする必要がある場合には、ミックスダウンは再編集の後にリスケすることになります。

この作業はクライアントの目からは、何をしているかよくわからない時間が多いため、営業スタッフやプロデューサーがいる場合は、スタジオの外に出て雑談をしてもらうこともあります。

慣れたクライアントで、信頼されている場合は、ナレーション録音を終えて、間違いがないことを確認したらお帰りになることもあります。



(10)完パケ


ミキサーがミックスダウンを終えると、念の為、全員で再度全編をプレイバックして、音量バランスやタイミングをチェックして完成です。

ディレクターは、映像との同期がとれるかたちの音声データファイルを受領します。最近はMA技師さんからWEB送信で音声データを受領することが多くなりました。このデータを自身の編集プロジェクトに貼り込んで、書き出せば完パケです。



うまく読めない時の私のやり方


ナレーターの読み方が気に入らない時は、的確にそのことを説明して、具体的な読み方を指示しましょう。そして3回繰り返しても満足がいかない時は、そこでやめて最初のテイクをOKにしましょう。多分それ以上繰り返しても無理だということと、それ以上繰り返すとナレーターに焦りが出てきて、他の部分もうまく読めなくなる可能性が高いからです。案外最初のテイクの読み方でも一般視聴者は違和感がないものです。クライアントの前で「自分は気に入らないけれどOKにします」と言うわけにはいきませんから、そこはうまく取り繕いましょう。これが私の経験則です。




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