1曲で済ませるなんてイージーじゃありませんか?
YouTubeを見ていると、ほとんどの動画が音楽1曲で終始しています。これ、我々映像制作者から見ると、極めてイージーな仕事と思います。想像するに、映像より先に音楽があって、音楽のリズムに合わせて画をはめている様子。イントロもエンディングもない、曲想が頭からお尻まで一辺倒という場合も少なくありません。これはつまり、 その動画には起承転結が無い、深い意味は無い ということを意味しています。
意味なんて嘘くさい!
そもそも、映像(動画)に意味やストーリーを持たせること自体に嫌悪感というか、嘘くささを感じている世代がじわじわ拡がっているように感じます。
私たちの世代の映像制作業にとって、映像は意図を伝えるためのものだから、流れの中にストーリーを盛り込み、視聴者に一定のメッセージを伝える、ということがアタリマエと思っていますが、若い世代であればあるほど、「意図を盛り込むのはダサい」と思っているようです。そういう空気を読み取ると、若者たちはすぐさま視聴離脱します。
映像は上を行く
さて、こういう世相になってくると、私たちはその空気を敏感に嗅ぎとって「意図なんか盛り込んでません」というフリをした映像をつくります。YouTubeに溢れている「音楽に乗せてかっこよく編集した動画」ならば簡単です。
でも、やっぱり仕事には真面目な我々。実はメッセージはしっかり意図してあって、さりげなく演出してあります。その結果、ネットの書き込み欄には実際意図した通りの感想が溢れます。
結局みんな騙される
のですが、視聴者もこういう状況が継続すると、そのうち制作者の意図に気付くようになります。視聴者というのはいったんは映像(動画)騙されながらも、そういう映像(動画)を見慣れてくると、次第にリテラシーを高度化していくものです。
ですから、音楽1曲で気持ちいい映像を繋げて見せる、というアッサリ手法で「意図してませんよ」という動画も、早晩その手は使えなくなるとみています。
あるエピソード
ある日、案件の相談電話がかかってきました
(私)
新商品をWEB動画でPRしたいということですが、商品機能の特徴を伝えるとか、取り扱い方を説明するとか、主にどういった目的をお考えですか?
(営業さん)
いえ、お客様はYouTubeに動画をアップしてブランディングをお考えです。
(私)
そうですか、お客様の会社のブランド力の向上でしょうか? 商品をブランド化したいということでしょうか?
(営業さん)
両方ですね。ですから、今回の新商品の使い方を色々紹介したいんです。
(私)
あ、ブランディングではなく、取扱説明をしたいということですね。
(営業さん)
いえ、ブランドビデオです。
(私)
???
ブランドビデオとは何か?
営業さんは「ブランディングのための動画」と言いながら「使い方紹介」をしたいと言います。僕らの世代は「ブランディング」と言えば、その新商品のコンセプトを映像デザインやメッセージに代えて、商品のプレステージをイメージ化することを考えます。ですからこの時、営業さんが言う「使い方紹介」というリアルな映像が、どうしても「ブランドビデオ」のイメージに背反してしまったのです。相手は同じ広告業界の人ですが、用語の意味をまるっきり違う捉え方をしていることになります。
取説ビデオでブランディング?
はじめのうちお互いの頭の中にある映像は、一向に同調しませんでした。
こうしたコミュニケーションが増えてきたのは、僕が単に歳をとってジェネレーションギャップが拡がってきたからでしょうか。
ジェネレーションギャップ?
言葉を積み重ねて探っていくうちに、どうやらこの営業さんのように、若い世代の広告営業では、「ブランディング=イメージビデオ」という、定型的な発想は無いのかも知れないことに気づいたのです。
それはどういうことか?
自己申告のブランドイメージを信用しない
つまり、ブランディングするにしても、「どうだ、うちはこんなの高級なブランドなんだぞ!」と企業が直球でアピールする動画はインチキ臭いと感じるのではないでしょうか。実績も知名度も無い会社が、不釣り合いなブランド力を誇示しても、むしろ「お金にものを言わせる、怪しい会社」扱いされるのがオチのようです。メディアリテラシーが進化している若い世代には、もうこの手は通用しません。
真摯な企業姿勢をリアルに感じさせるWEB動画
で、例えば、愚直なまでの真摯な製品づくりや、消費者のことをとことん考えた機能などを伝える、ほとんどドキュメントに近い「リアルな動画」が、むしろブランド力を高める基盤となると若い世代は感じているのです。
「取扱説明動画」も立派な「ブランドビデオ」
もちろん、こうした価値観の変化は、昨今動画をスマホで視聴するのがアタリマエになり、洪水のように溢れてくる動画を、あっちへ行ったりこっちへきたりして、忙しく見まくっていることが影響しているでしょう。これもアタリマエですが自分が見たいと感じるものしか見ないのですから。
ことほど左様に、動画コミュニケーションは、直球、カーブ、時には直角球(なんだそれ?)、投げたフリとか、2コ投げるとか、あの手この手を使って視聴者の気を惹き付けなくてはならない時代です。
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