新聞記者が突撃取材の張り込み時に食べる調理パンのこと、ではありません。
テレビニュースの報道ビデオカメラマンが、取材先の「状況」と「事件現場」を1カットで短時間で見せるために開発された(?)パンニング法です。たぶん。 まずその場所がどのような場所なのかを捉えることができる広めの画を1、2秒見せたら、あっという間にカメラを回し、今日のトピックスの核心であるところにフォーカスを合わせる、あれです。ニュース番組の限られた時間枠でレポートするために、取材VTRに極限までの簡潔さが求められた結果でもあります
減少理由
最近ではこの報道パンをニュース番組で見る機会が減ってきたように思います。想像するに、今は取材現場にカメラマンを同行することが少なくなり、記者やディレクターがカメラを回している(回ってないって!)ことが原因ではないかと思います。
私はカメラマンではないので、断言はしませんが、パンニングの始まりの画とキメの画のサイズや距離が違うと、パンニングしながら同時にズームとフォーカスを動かして、キメのポジションでピタリと決めなくてはなりません。この技術は、そう簡単ではないでしょう。プロでも何度も繰り返し練習して、何度かのテイクの後でOKカットを撮るのを目撃しています。
報道パンは「途中が見えない」
むかし、報道(ビデオ)カメラマンがアルバイトでPRビデオのカメラを回すと、この報道パンをやらかして叱られていました。よくあった笑い話です。報道パンで撮った映像は、編集された一連の中に置くとそこだけが目立ってリズムが違います。一定のリズムで編集されるPR映像には違和感があるため、編集する人は「これは使えねえよ」というわけです。
その場所の状況を伝える上で、カメラをフィックスしたままで全体像が掴めるならばパンニングは無用です。パン二ングしないと全部を見せきれない場合に、パンニングは使います。報道パンはその場所の状況と事件現場との「関係性」を表すためのものなので、パンニングしている途中の画像が速すぎて何が映っているかわからなくてもOKです。
いっぽう、PR映像ではその途中にも見せたいものがある時にしか、パンニングをしません。というより、パンニングの途中の無意味なもの、美しくない画を数秒にわたって映し出すのは苦痛なので、できればパンニングは使いたくありません。ましてやリズムに違和感が出る報道パンは使いたくありません。その代替手段としては編集によって関係性を表す方法がいく通りもあります。
クイックパン・ホイップパン
昔のアメリカB級映画でも急激なパンが使われていました。この急激なパンニング技法は、B級映画特有の「大げささ」や「ドラマチックな演出」の一部として、独特の魅力を持っていました。現代の観点からは、やや古臭く感じられることもありますが、その時代の映画製作の創意工夫を示す興味深い例です。
B級映画での使用
1950年代から1970年代のB級映画、特にホラーやSF映画でよく見られました。
低予算制作の中で、視覚的なインパクトを与える手法として重宝されました。
技法の特徴
カメラを非常に速く動かし、画面をほぼぼかすほどの速さでパンニングします。
多くの場合、音響効果(急激な音や「ウィップ」音)を伴いました。
使用目的
驚きや衝撃を表現する:突然の恐怖や予期せぬ出来事を強調。
シーン転換:異なるシーンや場所への急激な移行を表現。
緊張感の演出:急な動きで観客の注意を引き、緊張感を高める。
特殊効果の代用:高価な特殊効果の代わりに、カメラワークで動きや変化を表現。
具体的な使用例
モンスターの突然の出現
殺人シーンの直前や直後
宇宙船の急激な方向転換
主人公の急な気づきや驚きの表現
B級映画ならではの特徴
やや過剰な使用:より「ドラマチック」な効果を狙って頻繁に使用。
技術的な粗さ:完璧な滑らかさよりも、ショッキングな効果を重視。
現代映画への影響
現代の映画やテレビでも、このテクニックはホメージや特殊な効果として時々使用されています。
特にレトロな雰囲気や、B級映画の味わいを意図的に出したい場合に活用されます。
報道パンもクイックパンも特別なものではなくなった
現代の動画世界で使われているクイックパンは、むしろ意図的ではなく、さまざまなカメラワークの連続の中に無意識に使われているようです。つまり意味や意図を表すものではなくなったということかも知れません。
報道パン、今ワンポイントで使ってみると案外新鮮かもしれません。
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