映像制作会社で企業が発注するPR映像コンテンツのプロデュースをする者は、クライアントと共通認識を持つために様々なコミュニケーションをとります。その主な方法はやはり言語によるものですが、言葉、単語の認識、理解は現代では非常に多様であるため、時に言葉尻を捉えて「それはどういう意味で使っていますか?」と問い詰めるような質問をせざるを得ない場面があります。しかし、こうしたやり方は相手の心象をとても悪くします。どうして相手が使った言葉の意味を尋ねると印象が悪いのでしょうか。
頻繁に遭遇する言葉の取違
経験豊富な映像制作会社のプロデューサーは、様々な企業の様々な人と話をしながら仕事を進める中で、かなり頻繁に言葉の意味の取り違いに遭遇しています。
例1
クライアントの担当者の中には、映像のワンカットを「写真」という言うことがあります。
「では出張した時に、支社の写真撮ってきます」と担当者の方が言うと、私たちは「あ、動画ですね?」と確認しなくてはなりません。話の脈略から考えれば、まず動画で間違いないのですが、稀に写真データをいただく羽目になるからです。
例2
「会社案内動画をつくりたいと思っています」と言われると、私たちはまず会社案内パンフレットの動画版かと想像するのですが、話を伺っていくと、「尺は60秒までで」と言われることがしばしば。そうすると、この動画のジャンルは会社案内ではなく、会社のイメージ動画と括った方が話が通じやすくなります。
例3
「インタビューでお願いします」と担当者。インタビューは、インタビュイーとインタビュアーのコミュニケーションで成立する取材手法ですので、私たちは必ず誰がインタビュアーになるかを考えます。しかし、担当者によってはインタビュアーを想定していない「コメント撮り」のことをインタビューと呼んでいることがあります。
言葉の意味を尋ねると印象が悪くなる理由
専門性への疑問
クライアントは、プロデューサーが業界用語や専門用語を理解していることを期待しています。基本的な言葉の意味を尋ねることで、プロデューサーの専門性や経験に疑問を抱かせる可能性があります。
コミュニケーション能力への不信
言葉の意味を頻繁に尋ねると、プロデューサーのコミュニケーション能力に問題があると思われかねません。
信頼関係の欠如
言葉尻を捉えるような質問は、クライアントの意図を疑っているように受け取られ、信頼関係を損なう可能性があります。
時間の無駄
細かい言葉の定義にこだわることで、本質的な議論から逸れ、時間を無駄にしているという印象を与える可能性があります。
どのような方法で共通認識を得るのが良いか
積極的な傾聴
クライアントの話をよく聞き、文脈から意味を理解するよう努めます。
パラフレーズ
クライアントの言葉を自分の言葉で言い換えて確認します。例えば「つまり、〇〇ということでしょうか?」と確認します。
具体例の要求
抽象的な表現があった場合、「具体的にはどのようなイメージをお持ちですか?」と尋ねます。
ビジュアル資料の活用
言葉だけでなく、イメージボードや参考動画などを使って視覚的に共通認識を形成します。
要約と確認
打ち合わせの最後に、理解した内容を要約して確認します。「本日の打ち合わせで、〇〇、△△、□□という点を確認させていただきました。これで間違いないでしょうか?」
フォローアップ
打ち合わせ後、議事録やメモを送付し、理解に誤りがないか確認を求めます。
業界用語や専門用語の事前学習
クライアントの業界や製品について事前に学習し、よく使われる用語を理解しておきます。
オープンな質問
「それはどういう意味ですか?」ではなく、「その点についてもう少し詳しくお聞かせいただけますか?」といったオープンな質問を心がけます。
おしまいに
経験豊富がゆえに言葉のもつ多様な意味を知っているプロデューサーほど、この課題に直面します。映像制作は後戻りできない工程が多いため、こうしたコミュニケーションの齟齬は、気づいた段階で早めに修正しておくべきですが、上記した通り、共通認識を持つことの重要性と、良好な関係性を維持することのバランスを取るのは難しく、不用意な質問はコミュニケーション自体を悪化させる危険性があるため、映像制作会社のスタッフ全員が留意したいことです。
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