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採用動画と会社案内動画を別々に制作すべき理由

Tomizo Jinno

採用活動が非常に厳しい環境にある今、動画コンテンツによる採用支援を検討する企業は、ますます増えています。しかし、決して安くない予算に加えて、非常に多くの稟議や社内根回し、承認が必要な制作物であることから、せっかくなら同時に会社案内動画も作ろうじゃないか・・・とお考えになることはもっともです。

しかし、採用動画と会社案内動画は視聴対象も目的も異なるため、これらを1本の動画で満たすのは無理があります。


視聴者が求める情報の本質的な違い


採用動画の主たる視聴者である就職活動生は、自身のキャリアを託す場としての企業の姿を知りたいと考えています。彼らは自分がその会社で働いた時のイメージを具体的に描きたいと願っており、そこで働く人々の生の声や、日常の業務風景、成長機会の実態などに強い関心を持っています。特に、入社後数年の若手社員の経験談や、配属後の具体的な仕事内容、研修制度の詳細といった情報は、就活生にとって最も重要な判断材料となります。また、職場の雰囲気や社員同士のコミュニケーションの様子、実際の働き方など、入社後の生活をイメージできる具体的な情報にも高い関心が寄せられます。


一方、会社案内の視聴者である取引先や株主は、事業パートナーとしての企業の実力や信頼性を確認したいと考えています。彼らは企業の技術力、市場での競争優位性、財務健全性、そして将来的な成長可能性などを重視します。具体的には、開発力を示す研究施設の様子や、品質管理の徹底ぶり、顧客導入事例における成果など、事業上の強みを裏付ける要素に注目します。さらに、業界内でのポジショニングや、経営戦略の方向性、事業展開の具体的なロードマップなど、ビジネスパートナーとしての将来性を判断するための情報も重要視されます。


採用面接を受ける女性


映像表現に求められる異なるアプローチ


採用動画では、視聴者である就活生との共感的なコミュニケーションが重要です。そのため、親しみやすい雰囲気や、等身大の社員像、職場の自然な様子を伝えることが求められます。ナレーションのトーンやBGM選択も、より親近感のあるものが適しています。また、若手社員の素直な感想や、失敗を乗り越えた経験、職場での何気ない会話など、ドキュメンタリータッチの描写も効果的です。さらに、就活生の不安や疑問に寄り添うような構成や、入社後のキャリアパスを具体的にイメージできるようなストーリー展開も重要な要素となります。


対照的に、会社案内では企業としての信頼性や実力を印象づける必要があります。そのため、より格調高く洗練された映像表現が求められ、ナレーションも重厚で説得力のある調子が好ましいとされます。企業の歴史や実績、技術力や市場優位性を論理的に展開し、確かな事業基盤を持つ企業としての姿を印象づける必要があります。また、グローバルな事業展開や先進的な技術開発など、企業の強みを効果的に演出する映像表現も求められます。この表現トーンの違いは、一本の映像の中で両立させることが難しく、どちらかに寄せると他方の効果が減じてしまう結果となります。



活用シーンの違いがもたらす要件の相違


採用動画は会社説明会やキャリアフォーラムでの上映、採用サイトでの公開など、就職活動のコンテキストで視聴されます。そのため、学生の集中力や理解度を考慮した適切な尺設定や、重要なメッセージを印象的に伝えるための工夫が必要です。また、スマートフォンでの視聴にも対応した画面構成や、SNSでのシェアを意識した印象的なシーンづくりも重要な要素となります。


一方、会社案内は商談や展示会、株主総会など、ビジネスの文脈で使用されます。プロフェッショナルな視聴者を意識した情報の密度や、データや図表を用いた論理的な説明、業界特有の専門用語の適切な使用なども考慮する必要があります。また、海外での使用を想定した多言語対応や、商談の流れに応じた柔軟な編集にも配慮が必要です。



情報の更新サイクルの違い


採用動画は、毎年の採用活動に合わせて、最新の職場環境や若手社員の様子を反映させる必要があります。特に、働き方改革やダイバーシティの推進など、就活生の関心が高いトピックについては、企業の最新の取り組みを反映することが重要です。また、入社後の配属先となる新規事業や、注目のプロジェクトについても、タイムリーな情報提供が求められます。


一方、会社案内は中期的な企業戦略や事業展開に基づいて制作され、比較的長期的な使用に耐える内容が求められます。企業理念や事業領域、技術的な強みなど、基本的な要素を重視しつつ、市場環境の変化や新たな事業展開にも対応できる構成を工夫する必要があります。このような更新サイクルの違いからも、別タイトルとして制作管理することが合理的といえます。



投資対効果の観点から


確かに、制作費用の観点からは一本化の誘惑があります。しかし、採用活動における印象形成や、取引先との信頼関係構築など、それぞれの目的における成果を考えれば、別タイトルでの制作は十分に価値のある投資といえます。特に、人材獲得競争が激化する中、採用動画の質の確保は優先度の高い経営課題となっています。同様に、ビジネス環境の変化が激しい現代において、企業の強みや将来性を効果的に伝える会社案内の重要性も高まっています。



結論:目的に応じた最適化の必要性


採用動画と会社案内は、視聴者の期待、表現方法、活用シーン、更新サイクルなど、あらゆる面で異なる特性を持っています。それぞれの目的に最適化された映像を制作することで、より効果的な企業コミュニケーションが実現できます。短期的なコスト削減の誘惑に流されることなく、長期的な効果を重視した戦略的な判断が求められているのです。視聴者に対する誠実なコミュニケーションの姿勢を示すためにも、それぞれの目的に応じた丁寧な映像制作が望ましいといえます。

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