「映像」の特長とは
新聞や雑誌のような紙媒体に掲載される広告、ビルの屋上看板や地下鉄の車内に掲示されているポスターなど、つまり静止している広告や表現物との比較で、「格段に情報量が多い」という特性が「優れている」とよく言われます。
コマ数は情報量を表さない
物理的なスペックで見れば、映像(動画)は一般に秒間に24コマとか30コマ、多いものだと60コマの静止画が入っていますから、たしかに1秒の視聴ですでに紙媒体の数十倍の情報が入っています。
でも、人間の目と脳味噌はそのような超スピードで送られてくる情報を識別できません。
我々映像制作者が、映像を切り取り繋ぎわせる作業(いわゆる編集)を行う際に、1カット(被写体は動いていることもあるし静止していることもあるが、1つの事象を捉えているとする)に映っているものを視聴者にしっかり認識してもらおうと考えると、概ね6秒以上の時間を与えます。つまり秒間30コマとすると、結局180コマは同じ画像が続きます。
だから、多くて1分間で10画像ということになり、例えば雑誌広告が各ページに全面で掲載されていたとすると、12秒でページをめくりながら各ページの画像を見ていくことと、そう変わりません。
むしろ、雑誌であれば気になることがあれば、ページを繰る手を止めれば、さらにしっかり確認できます。
逆に映像の場合は、さっさと次の画像に行ってしまいますから、「あれ?」と思ってももう1度確認するにはかなりの手間が掛かるため、大方はそのまま見送ってしまいます。
情報量が多いことが仇となる映像
こうなってくると、映像だから情報量が多い、ということが返って仇となり、視聴者には結局何がなんだかわからない・・・ということになります。
映像メディアの優位性は、実はコマ数の多寡ではありません。
連続する(動く)画像、ナレーション(言葉)、音楽・効果音などのマルチなチャンネルの情報を同時伝達できるという意味で「映像は情報が多い」のです。経験ある映像制作者であれば、普通こう考えます。
情報を並べ替え組み合わせる
これによって「人の感情を動かす」ことができるから映像は優れている、と考えるべきでしょうし、そういう映像を作ることができる人が、プロの映像制作者ではないでしょうか。
映像とは、視聴者を「理解」からさらに「納得」という深さまで連れていくことができる技術です。
B2Bのために制作する映像は、映像企画者(我々におけるクライアント)が伝えたい、伝えなくてはならない情報を、視聴者(クライアントが伝えたい相手)に確実に理解してもらい、そん人たちに次の行動に移ってもらうことが目的です。
シナリオが成否を決める
そこで大変重要なのがこの「シナリオ」なのです。
マルチな情報をうまく調和させて、雰囲気や気分、時には「意味」を醸成し、情報量が多いことが「仇」とならないように、流れの速さや順番の指定も、シナリオが行っています。
企画≒シナリオ
大きなプロジェクトの場合、まず「企画」を提案、策定するところから始めますが、ビジネス映像では「○○を映像でPRする」ということで、すでに企画は決まっているとも言えるため、よほど奇抜なアイデアを求められる場合を除き、実際には企画提案=シナリオ提案となります。
プロジェクトのスタートは共通認識づくり
超短尺映像ではない(1分以上くらいから?)企業映像は、制作する映像に盛り込むコンテンツ(情報)を整理して、クライアントと共通認識を得るところから、プロジェクトは始まります。
要件を箇条書きにたものをクライアントが用意する場合もありますが、そうした場合でもまず取り掛かるのは、その共通認識を得るため「シナリオ作成」です。このシナリオがクライアントと制作会社の制作契約の前提となる、仕様書となります。IT業界風に言えば「要件定義書」です。
共通認識=シナリオ
シナリオは「画像」欄と「ナレーション」欄に分けられていて、すべて文字・文章によって作成します。
演劇の脚本とそう変わりません。
シナリオの軸=ナレーション
ビジネスに供される映像を制作するためのシナリオは、多くの場合、「ナレーション文」を作文することから始まりますが、ナレーション欄に書いた文章が最後までそのままナレーションとなるとは限りません。いくつかの文章は画像が語ることになり、ナレーション文言は不要になることも多いからです。
シナリオライターという仕事
B2B映像のシナリオライターには2つのタイプがあり、ナレーション作成と同時に画像の流れを考えていて、カット割りに近い記述を映像欄に書き込む人と、画像のことはディレクターに任せることを前提に、ざっくりと画像が捉える対象、狙いだけを書き込む人がいます。
前者は自身も演出(ディレクター)や編集を行う人の場合、後者はシナリオライターだけに徹する人である場合です。
文字シナリオだけで契約成立
以前のB2B映像、VPと呼ばれる10分以上あるような映像のシナリオの場合、前者のタイプのシナリオライター(兼ディレクター)のような人でも、(頭の中には画像ができていても)シナリオの画像欄には大雑把な項目を書くだけで、後者タイプの場合も含め、こうした「文字シナリオ」を完成させればクライアントとの企画共有作業は終了。それを基に見積もり、契約を交わして受注成立でした。
絵コンテ
しかし、今はシナリオ+絵コンテを求められます。
さらに最初のシナリオ提案の段階から画像説明欄を実際の絵にして、「絵コンテシナリオ」を求められることも増えてきました。
こうなると、シナリオライター専業という人では絵コンテを作れないので、勢いこうした絵コンテシナリオの作成はディレクターが行うようになりました。時代背景として映像が3分前後と短尺であることが当たり前になってきたこともあり、シナリオ能力(構成力)はあまり必要がなくなってきたことも手伝っているでしょう。
絵コンテで映像が想像できますか?
ただし、絵コンテシナリオから、1コマ1コマのカットの尺は読み取れませんし、カットの切り替わりの効果編集、その時の音楽、台詞、ナレーションの相乗効果がどのようにそのシーンを印象づけるかは、一般の方では想像できないのではないでしょうか。
絵コンテはスタッフのためのもの
そもそも、絵コンテというのは、実は演出家(ディレクター)がカメラマンや照明マン、ADなどのスタッフと撮影する画像のイメージを共有するための「手段」として、専門知識をもっていることを前提とした表現物です。たった1シーンでもカメラ割り、カット割りによっては、何ページも費やさないと、編集後のシーンの全体像は表現しきれません。
提出物としての「絵コンテ」は異なる
クライアントに提案する「絵コンテシナリオ」を、こうした本物の絵コンテに替えたら、たぶん「もっとコマ数減らして!」と言われるに違いありません。
それ以前の問題として、映像の流れ(カット割りや効果)が完全のわかる絵コンテを、撮影前に作成するということは、実際の撮影は完全にその通り進めることができる・・・という前提が必要となり、企業映像の撮影現場の現実(時間の制約、予定の変更に臨機応変な対応を求められる)では実現不可能なことです。全シーン絵コンテ作成というのは、数千万円、数億円の予算を掛けて撮影するCMや映画の世界の話なのです。
映像の文法・文章の文法
映像の文法は文章の文法の逆であることが多々あります。
映像はまず結論を提示して、説明に入る場合が多いです。その方が視聴者を引きつけやすいからです。
ところがシナリオの文章で読んでいくと、この逆転している感じが、むしろ論理的でないように感じて、クライアントに「ここ直してください」と言われることが、多々あります。
絵コンテシナリオでは表現できない
昨日のトピックスで「マルチな情報をうまく調和させて、雰囲気や気分、時には「意味」を醸成し、情報量が多いことが「仇」とならないように、流れの速さや順番の指定も、シナリオが行っています。」と書きましたが、実はクライアントに提出する絵コンテシナリオを読み込んでも、こうしたことがどのように設計されているかは、わからないと思います。
正直に言えば、そのシナリオはディレクターの頭の中にしか無いのです。
いいえ、もっと正直に言えば、ビジネス映像の撮影現場は、ほとんどの場合目論見通りには行きません。想定していた効果も半分くらいは使えなくなります。ですから実際に撮影できた映像を見てから最善、最適な効果を生む編集を考える部分が5割以上なのです。
だから、撮影の現場では、できるかぎりバリエーションを考えて収録しています。
されどシナリオ。
されど絵コンテ。
これだけでクライアントと認識の一致に到るには、不完全。
「クライアントと、事前に制作する映像のイメージを一致させる」
この課題は、この道35年の僕が今も毎日、思案、研究を続けているテーマです。
シナリオの無い映像づくりの時代がきた
デジタル一眼カメラのボケみ映像やアクションカメラ、ドローン、タイムラプスなど、最新の撮影技術を駆使した「かっこいい」ことを第一目的に映像制作を求められる機会も多く、そうした場合はシナリオを提出しない、できないことも多々あります。
こうした案件の進め方については、改めて書こうと思います。
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