アナログ撮影の時代の画質管理
ENG=エレクトリック・ニュース・ギャザリングと呼ばれた、ビデオカメラが初めてスタジオを飛び出した時代のビデオカメラ収録では、カメラマンの他に必ずビデオエンジニアが随行して、記録データの管理をしていました。
単に「録画ができているか」ということではなく、記録されたビデオ信号が「放送基準に合っているか」「演出意図に沿った画像品質に調整されているか」ということを随時チェックしていました。
ニュース取材の場合はENG=カメラマン+ビデオエンジニア+音声マン+照明で1チェーン。
ENGからEFPへ
フィルムではなく、ビデオでCMや番組を制作するのが主流になっていくと、ロケの時にはこのENGスタイルの発展形、EFP=エレクトリック・フィールド・プロダクションとう呼び名も生まれました。
EFPの場合は、ENGスタッフに加えて、カメラにも様々な調整機器が付加され、現場に「マスモニター(スタジオで使うモニター)」や「波形モニター」を持ち込んで、さらに念を入れた画像管理を行い、同時に音声機器も様々な管理、調整を行いながら収録を進めます。スタッフの数も増え、スタジオの調整室がフィールドに出てきた、というスタイルです。
放送規格に沿った機材、映像データ管理
アナログビデオ時代の画像管理の標準は「放送規格」であり、収録時のホワイトバランス等は厳格に調整されていなくてはならず、編集時にもカット間の色や明るさのバランスを合わせ、記録信号が基準内の数値に収まっているか?そういうことが「入稿」時にも放送局の担当者によってチェックされ、時に逸脱したデータが見つかった場合は、再編集を命じられる、そういうものでした。音声も同様です。
デジタル+ネット+一般普及した今の「画質リテラシー」
さて、今の世はデジタル、しかも視聴媒体もスマホやパソコン、ときどきテレビ(モニター)となり、そこで流れてくる映像ときたら、画像管理の「が」の字も行っていないものだけでなく、様々にユニークな画質調整をしたものもあり、さらには様々な種類のカメラの画像を混在させた編集では、カメラごとに少々色や画質が替わることさえ、そう珍しいことではない。ばかりか、そういうことも、特に問題視する人もいなくなりました。
今もこだわっている会社は一流?
いや、居なくなったというのは言い過ぎで、放送局の技術者や大手プロダクション関係者は「そういうのは素人」というレッテルを、今も貼っています。
たしかに見ようによっては、画質管理がテキトーの映像は素人っぽいのですが、今はむしろそういう映像にこそリアリティを感じ、カット間の整合性よりも、1カット1カットの美しさやカッコ良さの方が大事、と感じる人が増えています。
一般視聴者の意識はそんなところに無い
逆に、綺麗に調整された映像を視ると「なんか作り事っぽい」とか「いかにも宣伝っぽい」と感じて、すぐに視聴離脱される傾向すらあります。
放送規格に準じた画質管理の常識?を守って撮影、編集しようとすると、大手プロダクションが提示するような数百万円、数千万円といった制作費を用意してもらわなくてはなりませんし、撮影時も山の様に機材を持ち込んで、10人以上のスタッフが現場入りする・・・なんてことをお許しいただかなくてはなりません。また、1カットを撮影するにも、何倍も時間が必要です。
老舗プロダクション、一流制作会社のブランドを守るには、「最高品質の映像」が基本で、ある意味でアイデンティティの基盤ですらあるからです。
最新・最適の画質リテラシー選択
しかし、われわれB2B映像制作プロダクションは、こうした映像のもつ世間、社会におけるリテラシーの変化、流行には敏感でなくてはなりません。なんと言っても、クライアントさんは今の時代の仕事のための映像を欲しているからです。
僕の場合、画像管理に関する標準は、クライアントさんと意思疎通しながら、「お求めになる価値」に応じて、両刀使い。というスタンスです。
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