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映像・動画制作におけるシネマティックの本当の意味

Tomizo Jinno

1895年にリュミエール兄弟がスクリーンに動く写真を投影して公開したのが、映画の起源と言われ、映像とはまさに映画のことでした。映画は motion pictures で、日本では活動写真と呼ばれた歴史を考えると、現代において映像のことを「動画」と呼ぶのは、映画という原点に戻っている、と考えると溜飲が下がるかも知れません。という話は置いておいて。


シネマティック


映像制作ビジネスの起源


テレビカメラによる放送技術や、それを記録するVTRが発明されたのが20世紀半ば。1970年代後半、3/4㌅Uマチックと呼ばれるポータブルVTRが発売されて以来、ビデオ技術による映像制作が、放送だけでなくビジネス用途向けにも行われるようになりました。それまで映画会社やテレビ局にしか作ることができなかった映像が、広く民間のプロダクションでも制作可能になったことが、現代の映像制作ビジネスの起点になりました。



目を覆いたくなる画質


しかし、当時のビデオ映像は680×480ピクセルで秒間29.97フレーム、しかもインターレース。今から考えると、よくあの画質で観ていられたものだなあと思います。

映像制作事業は映画会社やテレビ局だけでなく、数多くの中小零細プロダクションに広がったものの、放送規格の準拠した機器を揃えると何億円にもなるような時代でしたから、末端の零細プロダクションでは3/4㌅VTRで撮影して、3/4㌅環境での編集でした。もちろんアナログですからダビングの劣化は避けられず、発注先への納品をVHSで行う頃には目を覆いたくなるような画像でした。



高画質への憧れとテレシネ


そうした中でも、実力のあるプロダクションは高価な設備を所持したり、借りて(ポストプロダクション)、放送規格に準拠した番組やCMを納品していましが、当時の「ビデオ画質」であることには変わりがありませんでした。そこで流行したのが、フィルムで撮影した上で、その素材をビデオにテレシネ(変換)して編集、完成させるという手法です。

こうすると、ビデオカメラによる「ベタっとした画質」ではなくて、映画のように深みや陰影が得られるため、最終的にビデオ信号になったとしても、どこかしら品位のある映像に仕上げられたためです。それが高画質であるように感じたのです。

ただし、フィルム撮影を手配するには高額な費用が必要でした。

当時、広告代理店から予算をかけたTV-CMの制作を持ちかけられると「じゃあ、FTでやりますか?」と言ったものです。FTとは Film to Tapeの略語で、16mm、35mmフィルムムービーカメラで撮った素材を、ビデオテープで後処理するという作業フローで制作することを言いました。それによって得られる映像は、当時のビデオカメラ撮影、ビデオ編集の映像とは異次元の質感に見えました。

私にとってのシネマティックとは、この「テレシネ画質」のことだったのです。



現代のシネマティック


今、映像派の動画クリエーター業界ではこの「シネマティック」であることが常識になっていて、「シネマティックにつくられた映像こそが最高の映像である」だと言います。彼らが考えるシネマティックは以下のような要素だそうです。


高画質: 4Kや8Kなど高解像度の映像

アスペクト比: 16:9よりも横の比率が大きい横長画面

美しい色彩: グレーディングによって色彩を調整した映像

ドラマチックな演出: スローモーション、ドローン撮影、光などで「ドラマチック」演出をした映像

こだわりの音響: 音楽や効果音にこだわり、映像の世界観をより深く表現

ストーリー性: 単なる記録映像ではなくストーリー性のある作品


「シネマティック」の条件がこれらだとすると、裏を返すと「映画とは上記のような要素を備えているものである」となるのですが、この論法だと「シネマ=最高の映像」となります。どこか違和感を感じます。なぜなら、これらの要素を兼ね備えたビデオ作品だってあるからです。また、劇場映画であっても、これらを備えていなくても映画は映画です。


重要なことはシネマティックであることではなく、自分がつくりたい美しい映像をつくり込む方法を知っていて、実際につくることができることではないでしょうか。



シネマティックの再定義


私は「シネマティックとはテレシネ画質のこと」で良いのではないかと思います。ちなみに高品位なテレシネ画質を得るためには(フィルム)撮影時のフレームレートやシャッタスピードの制御が重要ですので、別途勉強してください。そこに書かれている通り撮れば、誰でもシネマティックな映像を撮ることができます。

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