映像制作における編集プロセスの変遷
映像制作においては、かつては「粗編集」「仮編集」「オフライン編集」「オンライン編集」「本編集」といった複数の段階を経て作品が完成されてきました。これらの工程は、特に大規模なプロジェクトや複数の関係者が関わる場合に、それぞれの役割を果たし、効率的な制作を可能にしてきましたが、ノンリニア編集の普及と動画コンテンツの激増によって、このプロセスの選択は二極化しています。
従来の編集プロセス
従来の編集プロセスでは、まず撮影された膨大な素材から不要な部分を切り捨て、物語の構成を大まかに組み立てる「粗編集」が行われました。その後、より完成に近い映像に仕上げる「仮編集」、高解像度ではない素材を用いて本編集前の最終的な調整を行う「オフライン編集」、そして高画質の最終的な映像を作成する「オンライン編集(本編集)」といった工程を経て作品が完成していました。
このような多段階の編集プロセスが採用されてきた背景には、高価な機材と高度な技術が必要であったこと、そして複数の関係者の承認を得る必要があったことが挙げられます。それぞれの段階で確認を行い、修正を加えることで、手戻りによるコストと時間の浪費を抑えながら、最終的な品質を高め、関係者の意見を反映させることが可能でした。
粗編集
撮影された全ての素材を一度見ながら、不要な部分を切り捨て、物語の構成を大まかに組み立てる作業です。いわば、映像編集の「下書き」のような段階です。
不要なカットの削除
撮影ミスや重複したカット、物語の流れに不要なカットなどを削除します。
カットの並べ替え
撮影順とは異なる順にカットを並べ替えて、物語の流れを作り上げます。
カットの長さ調整
カットの長さを調整することで、テンポの良い映像を作ります。
不要な素材の削減
膨大な素材の中から、本当に必要な素材だけを残すことで、後の作業を効率化します。
物語の構成
カットの順番や長さなどを調整することで、分かりやすく、面白い物語を構築します。
仮編集
粗編集で作った大まかな構成を基に、より完成に近い映像に仕上げる作業です。
仮編集を上記の粗編集と同意とする場合もあります。
エフェクトの追加
トランジションやテロップなどの効果を加えて、映像に動きや情報を付け加えます。
粗編集としての仮編集の場合は、これは省かれます。
音声の調整
BGMや効果音を加え、映像に合ったサウンドデザインを行います。
粗編集としての仮編集の場合は、これは省かれることもあります。
タイトルやクレジットの挿入
映像の冒頭や最後にタイトルやクレジットを挿入します。
粗編集としての仮編集の場合は、これは省かれることもあります。
完成イメージの確認
クライアントに仮編集映像を見せ、意見を聞きながら修正を加えていきます。
編集専任スタッフが編集を行う場合、ディレクターに意見を聞きながら修正を加えていきます。
最終的な調整のための準備
仮編集で全体の構成や雰囲気を固めることで、後の本編集の作業をスムーズに行うことができます。
オフライン編集
仮編集と同義語として使われることが多く、高画質ではない低解像度の素材を用いて、本編集前の最終的な編集を行います。
磁気テープの時代には、テープデッキに仕掛けて再生したり早回し、逆回しすること自体で、僅かながら磁気にノイズを生じさせるリスクがあったので、オフライン編集は、大切な撮影テープからVHSテープなどに「ワークテープ」を起こ(ダビング)し、そのテープで仮編集作業をすることが推奨されていました。
仮編集の修正
クライアントからのフィードバックに基づいて、映像を修正します。
タイムコードの記録 ( Edit Decision List : EDL )
各カットの開始時刻と終了時刻を記録し、本編集で正確に素材を呼び出すための情報とします。
オンライン編集
オフライン編集で作成された編集データ(EDL)を基に、最終的な映像を作成する作業です。テープ時代においては、この時だけはオリジナルの撮影テープを使って編集しました。
カラーグレーディング
映像の色調を調整し、統一感のある美しい映像にします。
ノイズ除去
映像に含まれるノイズを軽減します。
エフェクトの微調整
オフライン編集で加えたエフェクトを、より細かく調整します。
テープ時代には、この時初めて「特殊効果」として、エフェクトを掛けました。
本編集
オンライン編集とほぼ同義語として使われることが多く、最終的な映像を完成させる作業です。
デジタル時代における編集プロセスの変化
しかし、デジタル技術の発展とノンリニア編集システムの普及により、映像制作の環境は大きく変化しました。高性能なコンピュータと編集ソフトウェアの登場により、誰でも手軽に高品質な映像編集を行うことができます。
この変化に伴い、従来の多段階の編集プロセスは簡略化されつつあります。特に、小規模なプロジェクトや短納期での制作が求められる場合、粗編集や仮編集といった段階を省略し、最初から高画質の素材を用いて最終的な編集を行う制作スタイルです。
編集プロセスの選択
どの編集プロセスを採用するかは、プロジェクトの規模、予算、納期、そしてクライアントとの関係性によって異なります。大規模なプロジェクトや複数の関係者が関わる場合は、従来の多段階の編集プロセスが適しているでしょう。一方、小規模なプロジェクトや短納期での制作が求められる場合は、簡略化された編集プロセスが有効です。
コストを抑えた短納期の動画制作プロジェクト
粗編集、仮編集のプロセスを経る制作進行は、同時に制作期間の伸長、予算の増加を意味します。逆の視点で捉えると、予算が掛かったプロジェクトでは失敗は許されず、利害関係者の承認プロセスが重要になります。従って粗編集・仮編集・オフライン編集が重要な意味を持ちます。
いっぽう短期間で比較的低予算で進めたいプロジェクトにおいて、最も経費削減につながるのは、少人数化、短期間拘束化ですので、粗編集・仮編集・オフライン編を省略して、最初から本編集(オンライン編集)を行う制作進行スタイルが定着しました。
また、今は映像制作を外注するのが初めてというクライアントも多くなりました。また、映像表現が技巧的な編集に負うことが増えました。そのため従来の仮編集映像では、最終形の映像を想像してもらうことが難しいため、初回の試写からほぼ完成形に近い映像で見てもらう方が早い、という事情もあります。
スポンサー(クライアント)との信頼関係が前提
予算と納期の制約の下で実施されるプロジェクトでは、「編集プロセスの簡素化」はクライアント、制作会社双方にメリットがあるために行われるものです。ノンリニア編集の特徴として、粗編集と本編集は作業量において、アナログ時代のような大きな差がないことが根本的な理由です。
しかし、注意すべき点もあります。
・本編集(オンライン編集)に用いられる技術は、編集者の技量、試写後に修正指示が出た場合に対応可能な範囲内のものです。現在でもハイエンドの編集技術の中には、限られた高価な機材(ソフト)と技術者の技能が必要なものもあるので、それを用いた編集は含まれません。
・ノンリニア編集は、様々な修正が可能ですが、高度な技術が用いられた部分の修正にはコストや時間が必要になります。したがって「高度な編集」を行う予定の部分だけ「仮編集」を行い、承認後本編集を行うことがあります。
・ノンリニア編集は修正の自由度が高いとは言え、事前のシナリオ承認が得られていないなどの、全面的な修正が予見される場合には、一定レベルの「粗編集」「仮編集」を行うほうが、コスト、手戻りが抑えられます。
こられに関する事前の合意が前提になります。

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