音つけ
映像制作の工程の最後は“MA”と呼ばれる、「音」をつくり映像に貼り付ける作業「音つけ」です。音の種類は大別すると次の通りです。
同録
撮影と同時にマイクないしはPA機器からの音声ライン信号を、カメラ自体の記録媒体に映像と同時(同期して)記録した音声。または別の録音機器に映像と同期させるための信号を含めて記録した音声。タレントや歌手、インタビュー相手に向けた単一指向性マイク(オンマイク・口に近寄って)でダイレクトに入力したチャンネルと、カメラの周辺の音(ノイズ、生音、SEと言うことがある)を無指向性マイクで漠然と拾ったチャンネルの音声などがこれにあたります。
ナレーション・セリフなど
MAスタジオにて映像を見ながら、人の喋りをマイクを通して録音した音声。
音楽・効果音など
ビジネス映像制作の大半では「著作権フリー」と呼ばれるオリジナル音源を購入して、映像の雰囲気や意図に合わせて挿入しますが、記録媒体は様々です。
音声は映像編集の後で作業する
一般的には、映像の編集が完成した時点では同録音は撮影時のまま入っています。この映像+音声ファイルをMAスタジオに持込み、スタジオのMAシステム(普通のコンピュータだったりする)に読み込ませます。そして、予め選曲しておいた曲と効果音を、入れたい映像のポイント(タイムライン)に貼り付けます。音楽、効果音を入れたら次に、アナブースと呼ばれるガラスの向こうの部屋で、タレントさんやアナウンサーがモニターに映る映像を見ながら、ナレーションやセリフを喋り録音していきます。この時はすでに入っている同録音や音楽、効果音はボリュームを低くして聞きながら作業をします。雰囲気がつかめるようにするためです。そして声の録音が終わると、最後に上記の様々な種類の音声のボリュームを、映像のタイミングをみながらバランスを整えて完成です。
なぜ“MA”なのか
簡単な説明では「Multi Audioの略である」なのですが、この概念の起源は池上通信機(かつて放送用映像機器の市場では一世を風靡していた)の2インチVTRがマルチオーディオトラックVTR=MA VTRと呼ばれていたことに遡ります。
このオープンリールのVTRは4チャンネルのオーディオトラックがついていたことから、映像とシンクロできるオーディオ用のマルチトラック・レコーダーが登場する前までは、音楽、ナレーション、効果音をミックスして整音する「音つけ」作業には、この機材が大変便利だったのです。
フィルム業界の音つけは“ダビング”
30年以上も前僕がこの業界に入った頃は映像に音を付ける作業は“ダビング”と呼ばれていました。
映画(フィルム)時代の用語です。その後VHS/βmaxの家庭用VTRが普及して、“ダビング”は“コピー”のことであるという一般認識が広がるとともに、ビデオ業界では次第に音つけの工程は“MAV”に代わりました。“MAVTR”の名残です。そして、更に“MA”と短縮されるようなったと僕は認識しています。
ダビング・アナログ時代の音つけ作業は職人技
ところで「ダビング」の時代は、音つけ作業において映像と音声を同期させる方法は、冒頭の部分から「せーのー」で始めるしかありませんでした。「ドンスタ」とも言いましたよね。
どういうことかというと。オープンリールのテープレコーダー(プレーヤー)を何台も使い、それぞれに使用する曲の頭出しをしたテープを仕掛けておきます。フィルムの音声レコーディング専用の磁気テープのレコーダー(録音)をスタートさせ、映写機でフィルムの上映を始めます。みながその画面を睨みながら、狙ったカットが始まるタイミングに合わせて音効さん(音の職人)が音楽の入ったテープをスタートさせると、ミキサーさんがミキサー卓のボリュームを上げ、ディレクターのキューでナレーターがナレーションを喋り始めます。音楽が切り替わる部分では、音効さんが別のテープをスタートさせると同時に、ミキサーさんが前の曲のボリュームを絞り、新しい曲のボリュームを上げます。そして音効さんは前の曲の再生を停め、新たに別の曲の頭出しをして準備しておく・・・。
という、なんとも神業的な作業でした。
そう言う僕も結構神業師だったと自負しています。某放送局でミキサーやってました。
とちったら最初からやり直し
ナレーターが途中で噛んだり、オペレーターがトチると、トチった部分より以前の音が途切れていた部分まで戻って(音が無いところからでないと、継いだことがバレる)、そこからもう一度やり直す、という集中力と根気の世界だったのです。
だから時間が無い(スタジオがケツカッチン)時には、ディレクターは「今日は完パケでいくよ〜」と掛け声をかけました。この場合の「完パケ」とは一発で完成させることを言います。
デジタルになってMAは飛躍的に自由度が向上
翻って現代のデジタルMA技術は、どこで停めても、どこで切っても難なくそこからやり直して、まったくわからないように整音できてしまいます。
また、ピンポイントで♫ピキーンとか♪ドキューンという効果音を付け、後からでも自在にポイントを動かしたり差替えたりできてしまいます。
だから、最近のテレビ番組はやたら効果音が多いです。映像のアテンションが弱い部分を補っているのですが、なんだかウルサイなあと思うのは僕だけでしょうか。
またナレーション録音も一気に行わず、ワンセンテンスずつぶつ切れで録音するので、全体として起伏がないのっぺりしたナレーションをよく耳にします。
技術の使いすぎが、映像本来のチカラを抑えてしまっているように思います。
ノリが大切
古いやつだとお思いでしょうが、音つけの作業は手作業がいいように思います。活き活きした音声は映像を何倍にも引き立てます。ノリが大事な仕事です。だからナレーターさんにはのびのびと読んで欲しいし、できればナレーション録音は途中で止めずにやりたいと思っています。
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