top of page
Tomizo Jinno

映画館でなければ伝わらないこととは

新型コロナ感染症蔓延のためシネマコンプレックスはもちろん、ミニシアターのような映画館も休館が続いています。経営が苦しくなった会社がコンテンツをネット配信して収益を上げようという動きに対して、井筒監督は「映画は映画館で観なければわからない」と、インタビューに答えていました新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延により、大規模なシネマコンプレックスから小規模なミニシアターに至るまで、多くの映画館が長期にわたる休館を余儀なくされています。この困難な状況下で、経営難に直面した映画会社や配給会社が、収益確保の手段としてオンライン配信に活路を見出そうとする動きが加速しています。

映画館

映画人の嘆き

こうした流れに対し、著名な映画監督である井筒和幸氏は、あるインタビューの中で「映画は映画館で観なければ本当の良さがわからない」という趣旨の発言をしました。この主張は、果たして正当性があるのでしょうか?映画館という特別な空間でしか体験できない要素とは、一体何なのでしょうか?

映画館での鑑賞体験が持つ独自の価値について、様々な観点から考察してみます。


圧倒的なスケールで楽しむ大スクリーン体験

現代の映画制作技術は著しく進歩し、多くの作品が2Kや4Kといった高解像度で撮影・編集されています。確かに、家庭用の4Kテレビがあれば、理論上は映画館と同等の解像度で作品を楽しむことは可能です。しかし、現実的には、ストリーミング配信の場合、通信環境の制約から、フルHD(1080p)程度の画質が限界であることが多いでしょう。

ダウンロード視聴であれば4K画質の再現は可能ですが、ここで問題となるのは、家庭用テレビのサイズです。さらに、オンライン配信コンテンツの多くは、スマートフォンやタブレット、せいぜいノートパソコンの13インチ程度の画面で視聴されているのが現状です。

映画の制作者にとって、これは作品の本質的な部分が「見えていない」状態にほかなりません。映画館の大スクリーンでは、観客は自然と画面全体に視線を動かし、細部まで注目することができます。これは単なる偶然ではなく、監督や撮影者が意図的に仕掛けた演出効果なのです。

対照的に、小さな画面での視聴では、視聴者は画面全体を漠然と眺めがちです。そのため、制作者が演出や俳優の演技を通じて伝えようとした重要な要素が、視聴者に気づかれないまま素通りしてしまう可能性が高くなります。結果として、映画が本来伝えようとしたメッセージや感動が、十分に伝わらない恐れがあるのです。


臨場感を高める立体的な音響体験

映画館の魅力は、視覚的な要素だけにとどまりません。音響効果も、作品の世界観を構築する上で極めて重要な役割を果たしています。確かに、家庭でも高性能なオーディオ機器を使用すれば、ある程度まで映画館のサウンド体験を再現することは可能です。

しかし、現実には多くの視聴者が、スマートフォンやパソコン内蔵の小型スピーカーで映画を楽しんでいます。このような環境では、中音域の音しか十分に再現されず、低音や高音、さらには立体音響効果が失われてしまいます。これにより、制作者が意図した音の広がりや臨場感、緊張感などが大幅に損なわれることになります。


ビジネス映像制作者の共感

この問題は、エンターテインメント映画の制作者だけでなく、企業向けの映像コンテンツを制作するクリエイターにとっても深刻な課題です。例えば、多大な時間と労力を費やして制作した企業PRビデオや製品紹介動画が、クライアントや視聴者によってスマートフォンの小さな画面で、しかも縦向きのまま視聴されているのを目にすると、「せめてスマートフォンを横向きにして見てください!」と叫びたくなる気持ちは、多くの制作者が共有するものでしょう。


集中して観る環境の重要性

映画館という空間が持つ最大の利点の一つは、観客の注意を作品に集中させる環境を提供できることです。制作者たちは、何ヶ月、時には何年もの期間をかけて、細部にまでこだわり抜いた作品を生み出します。その過程で、彼らは作品の隅々まで記憶に刻み込んでいきます。

井筒監督が強調したかったのは、おそらくこの点でしょう。作品の「隅」にまで魂が宿っているということを、観客に感じ取ってほしいという思いです。この点において、私も全面的に同意します。


スマートフォン時代の映像コンテンツの特性

現代社会ではスマートフォンで手軽に視聴できる、比較的「軽い」コンテンツが求められる傾向にあります。スマートフォンでの視聴を前提とした映像制作は、従来の映画制作者の視点から見れば、作品の質を「軽視」しているように感じます。

こうした状況に直面して、「それならもう映画制作をやめた方がいい」と感じる映画人の気持ちは、十分に理解できます。しかし同時に、新しい視聴環境に適応した新たな表現方法を模索する挑戦も始まっています。

映画館での鑑賞体験と、オンライン配信による視聴体験。それぞれの特性を理解し、両者の長所を活かした新しい映像文化の創造が課題です。


閲覧数:0回

Comments


bottom of page