「筋を通す人」とは、常に一貫した人格と価値観を維持し、様々な状況下でも首尾一貫した判断や行動を取る人間性を持った人のこと。映像プロデューサーは、この筋を通す人であることを理想としている職務です。
クリエーターとしての筋 「芸術性と実用性の調和」
ビジネス映像のプロデューサーが筋を通すことは、クリエーターとして本質的に必要な資質です。その筋とは、まず依頼主の期待を上回る高品質かつ品位ある映像作品を提供すること。単に技術的な能力だけでなく、プロフェッショナルとしての誠実さと創造性の両立が求められます。
同時にクライアントの要望や方針に柔軟に対応することが求められます。
自らの言動や制作姿勢において一貫性を保つことも重要です。
ただし、この一貫性は硬直的なものではなく、自身の考える創造性がクライアントの希望と異なる場合には、柔軟な対応を示し、双方にとって最適な解決策を見出す努力が必要です。
これこそが、映像制作ビジネスにおける基本的な筋です。
自己の信念や芸術性を過度に押し通そうとする行為は、このビジネス領域においては必ずしも適切ではありません。なぜなら、最終的に納品に至らないという最悪の結果を招く可能性があるからです。クリエーターとしての誇りと顧客満足度のバランスを取ることが、真の意味で筋を通すことだと言えます。
組織としての筋 「階層的意思決定と協調性の重要性」
映像制作プロジェクトの進行中には、様々な段階で多様なレベルの判断や決定が必要となります。例えば、撮影現場での具体的な指示はディレクターの裁量で行われます。しかし、事前に詳細な絵コンテが作成され、それがクライアントの上長の承認を得ている場合、画面構成に大きな変更を加える際にはクライアントの担当者に相談する必要が生じます。
この時、担当者は自身がどこまでの権限を委任されているかを慎重に考慮し、必要に応じて上長に確認を取るなどの対応が求められます。
また、試写会にクライアント側の重役が参加するという情報が入った場合、制作会社側も同等以上の役職者が同席するのが筋です。これは単なる形式主義ではなく、プロジェクトに対する真摯な姿勢と相手への敬意を示す重要な行為です。
このように、組織としての筋を通すことは、階層的な意思決定プロセスを尊重しつつ、クライアントとの良好な関係性を維持するための重要な要素となっています。
シナリオ・映像の筋 「構造的一貫性と視聴者への配慮」
ビジネス映像制作において、作品の長さによって筋の重要性は変化します。短尺の動画制作案件では、限られた時間内に情報を凝縮して伝える必要があるため、必ずしも明確な筋が必要とされない場合もありますが、3分以上の映像制作案件では、視聴者の興味を維持し、メッセージを効果的に伝えるためにシナリオが不可欠です。このシナリオこそが作品の筋となり、ストーリーの一貫性と論理的展開を保証します。
筋が通った優れたシナリオは、視聴者の期待を巧みに操り、最後まで集中力を維持させる力を持っています。さらに、映像の品位や色彩の調和も重要な筋の一つです。
作品全体を通じて一貫したビジュアルスタイルを維持し、かつ明確なコンセプトに基づいた映像表現を行うことで、映像の筋が通っている状態を実現できます。
これは単に美しいだけでなく、メッセージの伝達力を高める重要な要素となります。
人としての筋 「公平性と誠実さの追求」
現代社会において、ビジネス関係を単純な主従関係や上下関係として捉える傾向が強まっています。しかし、真に筋を通す人間性とは、どのような状況下でも相手を尊重し、盲目的な従順さを避け、公平性と公正さを保ちつつ、誠意を持って仕事に取り組む姿勢を指します。
この姿勢は、短期的な利益や便宜よりも長期的な信頼関係の構築を重視し、ビジネスパートナーとしての相互尊重を基盤とした関係性を築くことにつながります。それは単なる取引を超えた、真の協力関係を生み出す源となります。
結論
ビジネス映像制作における「筋を通す」ということは、クリエーティビティと実務的要求のバランス、組織内外での適切なコミュニケーション、作品の構造的一貫性、そして人間としての誠実さという多層的な要素から成り立っています。私はこれらの「筋」を真に理解し実践することが、信頼される映像プロデューサーとしての重要な資質だと考え、日々精進しています。
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