「口」は嘘を語り、「目」は虚実を語る
ドキュメンタリー番組のインタビューの場面を思い出してください。話が徐々に核心に触れてくると、カメラマンは少しずつインタビューされている人の目にズームアップしていきます。視聴者は、一点を凝視するかの視線に、話が真実に迫っていると感じます。一方、目が泳いでいると「怪しい」と感じます。
口元をクローズアップしたら
では、その時カメラが喋っている人の口元をクローズアップしたらどう感じるでしょう。イメージしてみてください。たぶん、その画は「この人は嘘を喋っているかも知れない」という印象を与えます。感じない人もいると思いますが(笑)。
「目は口ほどにモノを言う」
と言いますが、口では嘘をつけても、目は嘘をつけない、と人は思っているもの・・・。という人の心理を利用した、これも映像が利用する記号のひとつとではないでしょうか。果たして本当に目は嘘をつけないのか、それは何とも確信が持てませんが。
尺貫法
映像(映画)業界では昔から作品全体やシーン、カットの長さのことを「尺」と呼んできました。「この作品、もっと尺縮めてよ!」とか、時間が長い作品は「長尺もの」とか言うわけです。
「時間」と言うだけは「時刻」のことと混同しますので、この尺という言い方は、いかにも「時間の巾」の事を言っているように聞こえるのは業界人だけ?
いちおう由来もちゃんとあります。
昔から映画のフィルムの長さの単位はフィート(30.48cm)が使われ、上映時間もこのフィルムの長さ(フィート)で表す習慣がありました。で、昔の 日本は尺貫法。1尺は30.3cmなので、フィート≒尺でいいだろう、ということで映画の「時間の長さ」のことを「尺」と呼ぶようになったそうな。(出典:あちこち)
上から下・下から上〜映像の方向性の意味
シモ(下手)← →カミ(上手)
※こちらの写真はTetuwo181様よりお借りました
下手はシモテ、上手はカミテと読みます。
映像用語の場合、シモは画面の左側、カミは右側のことを言います。
もともとは舞台用語かな?
テレビを見ていたら、東北ロケしたCMが流れていて、「いかにも東北の風情だなあ・・・」と感心しました。出演者のTommy Lee Jonesが青函トンネルを掘ったり、東北新幹線の鉄道軌道工事をしている缶コーヒーのコマーシャルです。
で、ふと思ったのです。
新幹線のCMといえば
たしかその昔「その先の日本へ」というJR東日本のキャンペーンCM(山形新幹線?)があって、その時も「う〜ん、東北の情緒を感じる映像だ」と思った記憶があります。
映像の共通事項はなにか?
「何が共通しているのだろう?」とよく考えてみると、もちろんふたつとも新幹線がテーマなので、鉄道というモチーフが旅情を誘っているのは当たり前なのですが、もうひとつ気づきました。
列車が走る方向性
それは「列車が下手から上手に走る」ということです。
たぶん、この二つのCMは東京の広告代理店、制作会社に発注して制作しています。そうすると、この関係者にとっては、東京を起点として東北方面に走る新幹線は、シモからカミへ走り抜けるのが自然に感じるのではないか、という推測です。
また、私たち中部に住む人間にとっても、というか東北地方、北海道地方以外に住む日本人にとっては、東北新幹線は左から右へ(幾分、右上方向?)走るイメージを持っているに違いありません。
緑色の列車が左から右へ走ると東北行き
だから、これらふたつのCMの中を走る緑色の列車が左から右へ走ると、自然に東北方面を連想する・・・という仮説を考えたのですが、どうでしょう?
いっぽう東海はどうでしょう
JR東海が制作するCMを思い出してください、主要な営業キャンペーンはほとんど東京本社(JR東海は名古屋と東京の2本社制)が仕切るので、東海道新幹線に関連するCMのほとんどは、カミからシモに向かって新幹線が走ります。なつかしいシンデレラエクスプレスのCMシリーズも、最後のロゴマークの背景の映像は、必ず画面右奥から左下に向かって入線してくる(名古屋駅?)新幹線列車の顔だったように思います。
しかし、名古屋本社管轄の企画の場合(JR発足当時、僕もよく仕事をいただいていました)、多くの映像は新幹線は画面左から右方向へ走る・・・すなわち上京するイメージが多かったと記憶します。
じゃあ西日本は?
では、大阪本社のJR西日本の山陽新幹線はどうでしょうか?なんとなくカミからシモに向かって走っているような想像をするのですが、この地方に住んでいる方、教えてください。
九州は・・・
さらに九州新幹線が開業する時に話題になった、沿線で大勢の市民が手を振って応援するCM。あのCMはどうだったでしょうか?僕の記憶では画面左右の動きというより、画面の下辺から上辺に向かっていたような印象が残っています。
画面のフレームの中での被写体の方向性の意味
さて、ことほど左様に映像のフレームの中で、列車がどっちに向かって走るか・・・なんてどうでもいいような気がするかも知れませんが、その方向性が視聴者の潜在意識に結びついて、無意識な中に連想を引き起こしているのではないかと仮定して、今度そういう映像を見かけたら、無意識下の自分の心理を探ってみてください。
この仮説が正しいとすると、映像の中の被写体の方向性は、視聴者のマジョリティーに向けてのメッセージであって、その方向性の逆に位置する人々にとっては、なんとなく疎外感を感じるものかも知れないことに注意しなくてはなりません。
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