未経験の人がB2Bの映像制作会社に就職すると、多くの人がこの職を与えられます。会社によってはAD(アシスタントディレクター)とPM(プロダクションマネージャー)は兼任の場合も多いようです。ADはその名の通りディレクター(演出家・監督)のアシスタントですので、本編映画の用語でいえば「演出部」に属しているのに対して、PMは制作部に属していて、上司はアシスタントプロデューサーやプロデューサーということになります。わかりやすく言えば「管理部」です。
PMの仕事の仕様書「香盤表」
「制作進行」とはよく言ったもので、PMの仕事は制作を進行させるためのすべての段取り屋です。で、その段取りのうち撮影に関する仕様書となるのが「香盤表」(こうばんひょう)。
映像制作の香盤表は、ひとつの作品を完成させるのに必要なカットをいったん全部バラバラにして、カットカットに必要な出演者やスタッフ、ロケ地、時間、季節などの都合がうまく合い、もっとも効率良く撮影が終えられるように並べ替えた表で、そのカットに必要なロケ地やセット仕様、出演者、衣装から大道具、小道具まですべての必要なものが書き込まれた段取り表です。
叱られてなんぼの制作進行
この香盤表に書き込まれた要素が間違いなく撮影現場に揃っていなければ、それはすべてPMの責任になります。ただし、画面の中に映る小物や消えもの、衣装や描き割り(絵で描いた背景)を準備するのは美術部の仕事で、美術部に「こんなもの欲しい」と言うのは演出部(大概AD)の仕事です。
でも、それがスタジオやロケ地に届いていないと、そのロジスティックを手配したPMが叱責を受けるのです。モノだけでなく、出演者やスタッフの移動や食事、宿泊の手配もPMの仕事です。香盤表をつくるのはディレクター(演出家・監督)の意を汲んだADの仕事です。時には演出上の理由で効率は悪くても「順撮り」と言って、シナリオの順番通りに撮影する場合もあります。その方が役者の演技が自然になったり、単にディレクターの都合でも順撮りが行われます。
PMがADを兼ねてしまうのが現実のB2B映像会社
いずれにせよ、香盤表は演出部の意向が大きく反映するのですが、香盤表の効率の良さはそのまま制作コストに跳ね返るので、予算を管理する制作部としては演出部の言われるがままに応じているわけにはいきません。 そこでPMがADを兼ねてしまえば、いちいち調整も軋轢も要らなくて効率的ですよね。社員も減らせるし。
というわけで、B2B映像業界では今ではPM/ADを分業しているような本格的な会社は東京の大手のごく一部じゃないでしょうか。名古屋やほかの地方のプロダクションでは非常に少ないと思います。経済効率はいいのですが、司法と行政が一緒になったようなもので、どうしても演出の意見が反映されにくくなるので、お客様にとってはどうなのでしょう。 大手のプロダクションに制作を頼むと、フルスペックのスタッフを組織して、目を剥くような予算提示を受けると思いますが、それはそれで、スタッフの能力をフルに活かし、組織の力でよりよい仕事を届けたい一心なのです。 映像はこれまで、大勢の才能を集めて集大成する「総合芸術」として歴史を刻んできたことを、いまいちど思い出していただけると嬉しいですね。
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