現在は生成AIの進化が映像編集ソフトにも組み込まれています。そのひとつの成果として、音声トラックに記録された声を瞬時に聞き取り、文字として書き出してくれるという機能があります。これにより、これまで講演会やセミナーなどの記録映像から、お話の内容を書き起こすという作業が劇的に平易になりました。例えば30分の聞き取り、テキストデータ化を人力で行なった場合、専門用語が頻出する時には、まる1日掛かってもできなかった作業が、ほんの数秒から数十秒でできてしまいます。
もちろんまだ時々、不明瞭な声が聞き取れなかったり、同音異句を間違えたりということはあり、人力でのチェック、修正は不可避ではありますが、請け負った映像制作一式の中に、この聞き取り作業がある場合には、とても気が重かった作業が、とても楽しい作業になりました。とくに、原稿を見ずにフリートークした映像の聞き取り原稿は、話し言葉独特の冗長さがありますが、それをプロンプト一行の指示で、正しく明快な文章にリライトする様子は驚愕的なものです。
このように、今は映像内のお話をそのまま字幕(テロップ)にする作業は造作もないことになりました。しかし、現代の字幕には、従来の字幕を超えた、それ以上の機能と役割があることにお気づきでしょうか。

1. 字幕は単なる翻訳ではない
従来、字幕は外国語で制作された映像作品を、視聴者の母国語に「翻訳」する手段として捉えられてきました。しかし、現代の字幕は単なる言語の置き換えを超えた、より多岐の役割を担っています。字幕は、映像作品の世界観を構築し、視聴者の理解を深め、時には新たな解釈を生み出すための重要な要素になっています。
字幕は、映像作品内の言語を可視化することで、視聴者の理解を助けます。特に、背景音が大きいシーンや、登場人物の口元がはっきり映っていないシーンなどでは、字幕が重要な役割を果たします。また、字幕は映像だけでは伝わりにくい情報を補完する役割も担います。例えば、登場人物の心理状態や、物語の背景にある歴史的な事実などを、字幕を通じて伝えることができます。
2. 字幕は映像表現を豊かにする
字幕は、単に情報を伝えるだけでなく、映像表現を豊かにする役割も担っています。字幕のフォント、サイズ、色、配置などを工夫することで、映像作品の世界観を表現し、視聴者の感情を揺さぶることができます。例えばゴシック体の太字の字幕は、力強さや威圧感を表現し、柔らかい曲線の書体は、優しさや温かさを表現することができます。
さらに、字幕は映像と一体となって、新たな表現を生み出すことができます。例えば、字幕を映像と同期させ、リズム感を出すことで、音楽的な効果を生み出すことができます。また、字幕を映像に重ね合わせることで、視覚的なインパクトを与えることも可能です。
3. 字幕は視聴者の解釈を促す
字幕は、視聴者の解釈を促す重要な役割も担っています。字幕は、映像作品内の言語を特定の言葉で表現することで、視聴者に特定の解釈を誘導することができます。例えば、ある言葉に複数の意味がある場合、字幕でどの意味を選択するかによって、視聴者の解釈が大きく変わることがあります。
また、字幕は映像作品に含まれていない情報を加えることで、視聴者の想像力を刺激し、新たな解釈を生み出すこともできます。例えば、登場人物の心の声や、物語の背景にある出来事を、字幕を通じて表現することで、視聴者は、映像作品の世界をより深く理解し、自分なりの解釈を構築することができます。
4. 字幕は映像作品への視聴者の案内人
字幕は、映像作品と視聴者の間を繋ぐ案内人のような役割を果たしています。字幕は言語の壁を越え、世界中の視聴者に映像作品を楽しんでもらうための重要な要素ですが、単に言語を翻訳するだけではなく、映像作品の世界観を伝え、視聴者の琴線に触れ、そして、新たな解釈を生み出すという、重要な役割を担っています。
したがって、字幕制作は単なる翻訳作業や聞き取り作業ではなく、映像作品全体を理解し、視聴者の視点に立って、最適な表現を選ぶという、高度なスキルが求められる仕事です。字幕制作の現場においては、字幕が映像作品に与える影響について、より深く研究し、より質の高い字幕制作を目指すべきでしょう。
まとめ
WEB動画では、音声を消して視聴するスタイルに対する対策としての字幕表示が一般的です。しかし、字幕をひとつの映像表現要素として捉え直せば、さらに多様な演出が可能になり、より効果的なメッセージの発信が可能になります。
映像制作者は、漫然とテキストを挿入するのではなく、映像内容をよく考えて、上記したような様々な機能についても考慮するべきでしょう。
いっぽうで、画面構成における文字の氾濫を憂慮する声も強くあることを知り、制作する映像コンテンツのテーマ、目的、視聴対象に配慮することも大切です。
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