メタファー表現は映像の定番
メタファーは、日本語では隠喩(暗喩)と訳され、「〜のように」などと例えることを明示せずに、「彼は獅子である」というように言う比喩の一種です。文章であれば比喩は「ように」を明示したり、しなかったり、どちらでも機能させることができますが、映像の場合の比喩は、すべて隠喩となります。もちろんナレーションやテロップで解説すれば隠喩ではなくなりますが、映像はあくまで何かを何かに直接的に置き換える隠喩的な表現になります。
例えばビールを注いだジョッキについた結露や、降り注ぐ太陽の光は、ビールのシズルを醸成するメタファーです。このメタファーによる映像表現は、いわば映像づくりの定番中の定番であり、多くのテレビCMでも常套手段です。

B2Bのマスマーケティング動画とWEBマーケティング動画
私が近年、気になっていることのひとつが、このメタファー表現がB2BのWEB動画の中でも、すでにスクリーニングされた視聴者に視聴されるコンテンツに使用されていることです。絞られた視聴者に対する動画をB2BのWEBウェブマーケティングに使用するならば、その映像にメタファーの使用が効果的かどうかは、よく検討するべきでしょう。
※メタファーを全く使用しないことが良いというわけではありません。ある程度尺がある映像であれば、状況に応じて、メタファーを効果的に活用することで、より魅力的なコンテンツを作成することも可能です。
マスメディアとWebマーケティングという異なる媒体において、メタファーが視聴者に与える影響は大きく異なることを説明しましょう。
マスメディアマーケティングにおけるメタファー
マスメディアは、不特定多数の視聴者を対象とするため、多様な価値観や興味を持つ人々にアプローチする必要があります。この際、メタファーは、視聴者の潜在的な欲求や感情に訴えかけ、共感を生み出すという点で非常に有効な手段となります。
多様な層への訴求
メタファーは、人それぞれ異なる解釈を引き出す可能性があり、個々の視聴者が自身の経験や価値観に基づいてメッセージを受け止めることができます。
記憶に残る印象
視覚的なイメージと結びついたメタファーは、視聴者の記憶に残りやすく、ブランドや製品の認知度向上に貢献します。
感情的な結びつき
メタファーは、論理的な説明よりも、感情的な共感を呼び起こし、ブランドとの間に強い結びつきを築くことができます。
Webマーケティングにおけるメタファー
一方で、Webマーケティングでは、事前にある程度の関心やニーズを持っているユーザーが、自発的に情報を検索することが一般的です。このような状況下で、メタファーのような曖昧な表現は、かえって視聴者の不信感を招く可能性があります。
情報の透明性
Webユーザーは、欲しい情報に素早くアクセスしたいと考えており、回りくどい表現は時間の無駄と捉えられがちです。
具体的な情報への期待
特定の製品やサービスに関心を持っているユーザーは、その製品やサービスの具体的な特徴やメリットを知りたいと考えています。
論理的な根拠
Webユーザーは、情報に対して批判的な視点を持つ傾向があり、メタファーのような比喩的な表現よりも、具体的なデータや根拠に基づいた説明を求めます。
メタファーが事実を知りたい視聴者にとって逆効果に
1. 情報の過不足
メタファーは、ある概念を別の、より身近な概念に置き換えることで、抽象的な概念を具体的に表現する手法です。しかし、この置き換えによって、元の概念の細部やニュアンスが失われる可能性があります。事実や真実を正確に伝えたい場合、このような情報の欠落は、視聴者の理解を阻み、誤解を生む原因となります。
2. 主観的な解釈
メタファーは、人によって異なる解釈が生まれやすいという特徴があります。同じメタファーであっても、それぞれの視聴者は、自身の経験や価値観に基づいて、異なるイメージを思い浮かべます。そのため、特定の情報を正確に伝えたい場合、視聴者の主観的な解釈に委ねるメタファーは、かえって伝達の妨げとなる可能性があります。
3. 真実の隠蔽
メタファーは、時に、ある事実に目を向けさせないために利用されることがあります。例えば、商品の欠点を隠すために、魅力的なイメージを連想させるメタファーが使われることがあります。このような場合、メタファーは、事実を歪曲し、視聴者を誤らせるための手段として利用される可能性があります。
4. 非論理的な思考の促進
メタファーは、論理的な思考よりも、直感的な理解を重視する表現手法です。そのため、メタファーを多用すると、視聴者の論理的な思考能力を低下させ、非論理的な判断を促してしまう可能性があります。事実や真実を客観的に評価するためには、論理的な思考能力が不可欠であるため、これは大きな問題となります。
5. 複雑な情報の単純化
複雑な製品やサービスの情報を、メタファーを用いて単純化することは、一見すると効果的なように思えます。しかし、過度に単純化された情報は、製品やサービスの重要な特徴を見落とさせ、誤った判断を招く可能性があります。
まとめ
メタファーは、感情に訴えかけたり、記憶に残る印象を与えるなど、多くのメリットを持つ表現手法です。しかし、事実や真実を正確に伝えたいという目的においては、必ずしも効果的な手段とは限りません。
事実や真実を伝えたい場合は、メタファーに頼るのではなく、具体的なデータや事実を提示し、論理的な説明を加えることが重要です。また、視聴者の理解を深めるために、視覚的な表現や、簡潔でわかりやすい言葉遣いを心がけることが効果的です。
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