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- 「共有」再考
「共有」が日常的になった現代のコミュニケーション 現代のビジネス環境や組織運営において、スタッフ間や協力者間のコミュニケーションの過半数が電子メールを介して行われているのが現状です。特にIT関連の組織では、独自に開発されたチャットアプリケーションやサーバーを経由したデータのやり取りがさらに多く見られる傾向にあります。このようなインターネットを活用した情報交換方法の最も顕著な特徴として、「共有」という機能が挙げられます。これにより、大多数の情報が複数の関係者に同時に伝達されることになります。では、なぜこのような「共有」が広く行われるようになったのでしょうか?その背景と意図を探ってみましょう。 報告と承認プロセスの効率化 企業や組織において、上司の指示や管理下で遂行される業務では、与えられた職務に関する利害関係者とのやり取りを上司にも同時に送信(共有)することで、日々の報告を兼ねる方法が一般的になっています。この「共有」という行為によって、上司がその進捗状況を把握し、暗黙のうちに承認したとみなされるのです。また、チームメンバー全員に同時送信することで、全員がその内容を理解し、特に反論や異論が返信されなければ、その進捗状況はチーム全体に承認されたものとして、次のステップに進むための根拠となります。このように、「共有」は情報伝達と承認プロセスを一度に行う効率的な手段として機能しているのです。 「共有」された情報は本当に読まれているのか? しかし、ここで一つの疑問が浮かび上がります。例えば、社員、主任、課長、部長、担当役員といった一般的な組織階層で「共有」が行われた場合、特に大企業の課長クラスの立場にある人々は、一日中部下からのメールに目を通し続けなければならない状況に陥る可能性があります。さらに、それらすべてのメールに対して返信で意見や指示を与えることは、物理的に不可能であると考えられます。また、部長への報告はどのような方法で情報を把握し、どのように行われているのでしょうか? このような状況下では、共有メールを受け取ったものの、その内容に部下の不適切な対応があったとしても、それに気づかずに「承認」したとみなされてしまう危険性があります。私個人の意見としては、部下から「メールで共有したはずですが...」と言われた場合、「そのような重要な事項は直接伝えるべきだ」と返答するでしょう。皆さんの会社ではこのような状況にどのように対処しているのでしょうか? 中間管理職の魅力低下の要因 最近の週刊誌や新聞、あるいはSNSで、課長職への昇進を希望しない社員が増加しているという記事を目にしました。この現象の背景には、メールチェックに追われ、「共有」という仕組みによって責任だけが押し付けられる一方で、それまでに培ってきた専門的な技能が活かせなくなるというジレンマがあるのかもしれません。中間管理職の役割が、単なる情報の中継点になってしまっていることへの不満が、この現象の一因となっている可能性があります。 対面でのコミュニケーションとネットを介した共有の相違点 過去においては、ビジネスにおける情報共有は主に会議やミーティング、上司への直接的な報告など、対面で行われる情報交換や伝達が中心でした。対面でのコミュニケーションとネットを介した共有の最も大きな違いは、前者が相手の反応や理解度に応じて説明の力点や視点を柔軟に変えられるのに対し、後者ではすべての受信者が同一の情報を受け取るという点です。 情報の受け手は、それぞれが持つ知識量や立場、環境によって、同じ情報でも異なる解釈をしたり、理解できない部分があったりします。そのため、「共有」という名目で送られる同一の情報は、実質的には多くの受信者間で真の意味での共有がなされていない可能性が高いと言えるでしょう。 一般用語として定着した「共有」の再考 「共有」という言葉は、ビジネスの文脈を超えて日常生活の場面でも頻繁に使用されるほど、一般的な用語として完全に定着しています。しかし、この実質的には十分な意味を成していない、いわば責任回避の道具として機能しているコミュニケーション方法について、社会全体でその問題点を認識し、再考する時期に来ているのではないでしょうか。 B2B・PR映像制作における対面コミュニケーションの重要性 私が携わるB2B向けPR映像制作の分野では、訴求対象となる企業やユーザーに対して、可能な限りカスタマイズされた内容(「事実」をより効果的に伝えるよう工夫された情報)を提供することで、最大限の訴求効果を目指しています。つまり、インターネット上で公開される映像であっても、対面でのコミュニケーションと同等、あるいはそれ以上の効果を生み出す映像を制作することが、私たちの使命であると考えています。
- 段取りを撮るビデオカメラ
DSLRってなんですか デジタル一眼レフカメラのことです。略してDSLR。 近ごろDSLRによるムービー撮影が、B2B映像制作の現場でも増えてきました。単純に撮影に使用するカメラ機材が替わっただけと思ったら、これはじつは大きな勘違いなのです。 VPってなんですか B2B映像はこれまで、業界用語でVPと呼ばれていました。なんとこれビデオパッケージの略であります。あまりに単純な呼び方だし、どうしてこれがビジネスユースの映像ソフトのことを言うのでしょうか。 昔は映像ソフトと言えば、テレビ番組、テレビCM、劇場映画くらいしか無かった時代が長く続きました。それらのコンテンツはたいてい電波か興行配信で視聴者に届けられていたことに対して、VPはそのコンテンツがVHSやβmaxテープという形ある箱に入っていたこと。 そして、高額な機材とスタッフを使って、広告宣伝やマニュアルとして映像ソフトを作れるのは企業くらいしかなかったので、すなわちビデオパッケージ(VP)=企業ビデオだったのです。 ビデオパッケージという映像ソフトのつくり方 このVPという映像ソフトの制作は、企業への企画や構成案提案によって始まり、絵コンテのような仕様書?のやりとりによって情報共有・理解を深め、ITでいうところの要件定義=シナリオをまとめ上げた上で、撮影の現場に入ります。 すなわち、撮影時には要件として定義された絵が撮れればOKなので、絵コンテのカット割りに描かれた構図を、その通りにどんどん撮っていきます。 要件を撮っていくという作業 こうした撮影は、例えば「データ入力している女性のキーボードを打つ指先」という命題であれば、キーボードを指先がスムーズに打っていっればOKです。 次に「モニター画面を見つめる目」というカット割りなら、カメラを据えかえて、女性の目元を狙い、女性が妙な瞬きさえしなければ、これもOKでしょう。 ことほど左様に、カメラが狙っているのは、キーボード、指先、目元、といっ要件を満たすことであって、決してカッコイイとか、堪らない笑顔の瞬間とかではありません。こういう撮影のことを「段取りを撮る」と言います。VPのカット割りは、大概の場合「段取り」で終始しているのです。(もちろん例外の企画もあるし、必要に応じてある程度拘っています) 機材もそれに合わせて進化した なにが言いたいかと言うと、従来のVPの撮影現場では、シナリオに書き込まれているシーンを構成するためのカットの、要件要素を満たす映像を撮るための現場です。旧来からあるプロ用のビデオカメラは、こうした現場を高効率に高品位に撮影できることに特化した機材が主流でした。 写真を撮るような感覚で動画を撮る ところが最近流行りのデジタル一眼レフカメラ(DSLR)は、まるで一枚一枚の写真を撮るようにレンズを交換し、焦点を一点に合わせて撮ります。なによりも狙っているのは決して要件要素だけではなく、ある一瞬のカッコイイ瞬間や感動的な光だったりします。つまり、こうしたカメラを使うこと自体が企画の一部であり、「映像美」が訴求要素として大きな位置を占めているのです。 カメラマンにしか見えていない世界 カメラを構えた前方に、傍目に要件要素が満たされている空間があったとしても、それを切り取ろうとしているカメラのファインダーが、そういう瞬間を捉えているかどうかは、カメラマンだけにしかわかりません。要件と美しい瞬間が一致した時を捉えないとOKはでません。おうおうにして、そういう瞬間はなかなか訪れません。だからカメラマンは粘り強く構え、時にあっちにこっちに位置を替え、ちっとも次のシーンに移ってくれないのです。 反面早くなったこと ただし、救いは照明についての考え方も違うこと。従来のVPでは、被写体や空間に影が出ることをとても嫌い、照明機材をたっぷり使い、時間もしっかりかけて照明をセッティングしていましたが、DSLRで撮影するような絵柄は、むしろそうしたわざとらしい照明を嫌います。 だから、昔のような照明待ちでジリジリと時間が過ぎていくことはありません。 ただ勘違いしてはいけないのは、こうしたDSLRでなければ撮れない映像の企画と、従来からのビデオカメラで収録するほうが効率的な企画は、狙っている映像の世界が異なるものです。ここを理解せずに、普通のVP?をやみくもにDSLRで撮影するのは意味の無いことです。 ただ、昨今はDSLR映像の世界観が受けていることは確かです。 プロデューサーの僕としては、面白くなったこともあれば、管理が難しくなった面もあります。ひとつ言えるのは、自分自身で映像のイメージを予めもっていて、それをディレクターやカメラマンと共有する技術を鍛えること、それが重要なことと感じています。
- 映像制作を外注する時に考えておきたい「要件定義」
要件定義の必要性 私たち映像プロダクションが映像コンテンツの企画・制作を請け負う多くの場合、クライアントに制作見積書をご提示します。クライアントはその見積書を他のプロダクションの見積書や社内の予算と照らし合わせて、発注の可否、発注先を選択します。ただし、私たちが見積書を作成するには制作する映像の企画内容や仕様情報が必要になるため、本来、映像の仕様を規定する企画構成案、シナリオが必要です。しかし、そこまでの手続きを踏む時間がない場合、少なくとも撮影日数や内容、CGの有無、映像の尺などを想定して「要件定義」をすることで暫定的な見積書が作成可能です。こうしたとき、私たちはクライアントにいくつかの質問をします。この記事では、私たちに映像制作の見積書を求める時に、考えておいていただきたい事項を、優先順位順にご説明します。 質問事項 ①ターゲット 私たちのクライアントのビジネスは、大きく分けてBtoCとBtoBの2種類です。映像コンテンツをつくる目的が、一般消費者を対象にするのか、事業者を対象にするのかによって、適切なコンテンツの企画は大きく異なります。また一般消費者の中でも性別や年齢、職業、趣味嗜好を絞るのか、大きく全般を対象にするのかによっても適切な企画は変わってきます。BtoBも同様に(to)Bを販売先とするのか利害関係者を広く捉えるかによって適切な企画は変わってきます。 BtoCとBtoBいずれの場合も、ターゲットのプロフィールをより細かく設定すれば、より効率が良い企画内容の策定が可能です。逆にプロフィールを広く設定すると、より平易な表現が求められ、媒体費用が嵩み、効率的な運用機会は減少します。BtoCとBtoBでは、ディレクターやカメラマン、エディターなどのクリエーターの適正が異なり、ギャランティも異なります。さらに、このあと説明する事項(媒体や映像尺、予算)にも影響が出てきます。 ②テーマ(題材) 企業(自体)、製品、サービス、人事、技術、など映像にする主題が何であるか。 ③目的 会社案内(認知・IR等)、ブランディング、販売促進、リクルーティング、マニュアル、プレゼンテーションなどテーマをどうしたいか。 私たちBtoB企業系映像コンテンツ制作プロデューサーは①-③を伺うと、経験からすでにある程度の予算規模をイメージしています。BtoC系の映像は企画の幅、演出によるコストの差異が大きく、プロデューサーによって想定する予算が大きく違います。 その幅を狭めていく質問が④-⑦です。 これらは、もしかすると①-③の条件から考えると、クライアントが「正しく」想定されているかどうかは、わかりません。けれども、そのプロジェクトに関する社内の位置付けや、担当者の方の考え方がわかるので伺います。案件受注時は軌道修正をご提案するかも知れません。 ④媒体 テレビ放送、動画共有サイト、自社WEBサイト、DVD等による送付、展示会、説明会等の会場上映、等、想定している媒体があるか。 ⑤時間 映像コンテンツの尺を想定しているか。 ⑥予算 想定している予算はあるか。 ⑦条件 撮影対象、撮影場所、撮影日数、CG・アニメ制作など、予想できることはあるか。 ④媒体と⑤時間は相関関係 一般的により一般視聴者の視聴機会が多い媒体ほど、時間(尺)は短い方が良いと言われています。目的意識を持った視聴者が集まる説明会などでは、少々長い映像でも、情報がしっかり盛り込まれている方が効果的です。短尺、長尺を比較すれば、やはり長尺の方が予算が必要です。ただし、短尺の場合は、よりインパクトがある表現が求められるため、プランニングや出演者に費用が必要になるかも知れません。 なお①-③を伺い、短尺での映像化が難しい場合もありますし、長尺が相応しくない媒体もあります。そうした場合は、2通りの見積書を作成するなどして、どちらにも対応できるよう対策することもあります。 ⑥予算を伺うと その会社におけるプロジェクトの位置付けや熱意がわかるため、制作途上におけるロスや効率が予想できます。また、プロジェクト内容の割に予算が少ない場合は、その価値観の相違が思わぬ齟齬を生むリスクもありますので、企画の軌道修正や予算の増額などの手続き行う余地があるかどうかを測らなくてはなりません。この場合も低予算、通常予算2通りの見積書を作成するなどして、どちらにも対応できるよう対策することもあります。 ⑦条件は ある程度経験がある担当者の方は提示されることも多く、見積書を原則的にその条件に沿って作成します。 これら①-⑦は、あくまで案件スタート時、初回見積書をご提案するときにお伺いしたいことです。先にも書きましたが、ターゲット、目的、テーマ、ご予算によっては軌道修正をすべき点も含まれている可能性があります。そこで条件設定を替えた複数案の見積書を提案することで、より適切な企画案でクライアントにとってより良い結果が得られるよう水先案内することも、映像制作プロダクションの仕事だと私は考えています。
- 動画・映像の解像度と尺の相関関係
20年前の映像作品との邂逅 約20年前に制作した映像作品の原盤(マザーテープ)を探す機会が思いがけず訪れました。きっかけは、ある若い方が自社の過去の映像をインターネットで調査中、偶然にも弊社のウェブサイトに関連記事を発見したことでした。その方から「ぜひ映像を見てみたい」との熱心な連絡を受け取ったのです。近年では疎遠になってしまっていた中部地方を代表する大企業のお客様からの依頼でした。私自身、若かりし頃にこの企業の営業と制作の両方を担当していた経緯があり、携わったプロジェクトには一つ一つ思い出深いエピソードが詰まっています。連絡を受けた瞬間、まるで走馬灯のように、当時の記憶が鮮明に蘇ってきました。 原盤テープの発見・浮かび上がる技術の変遷 幸いなことに、このお客様の主要な制作物のマザーテープは適切に保管されていることが分かっていたため、すぐに探索に着手。比較的容易に目的の原盤を見つけることができました。 スチール棚の奥深くに仕舞われていたその時代の原盤は、当然ながら磁気テープ形式でした。具体的には、BcamSPやD2といったフォーマットが使用されていました。現在では、Bcamを再生できるプレーヤーは老朽化が進んだ機器しか残っておらず、D2に至っては再生機器自体が社内に存在しません。古いVTR(ビデオテープレコーダー)にテープをセットして再生を試みるのは非常にリスクが高いのです。なぜなら、かなりの確率でテープがメカニズムに巻き込まれ、再生不能な状態になってしまう危険性があるからです。 テープから最新のデジタル動画ファイルへの変換プロセス 当該お客様のマザーテープをVTRにセットし、複数の機器を複雑に接続して、現在主流のデジタル動画ファイル形式に同時変換しながら再生を試みました。予想通り、再生されたテープの映像はノイズだらけでした。ただし、ここでテープメディアの経年劣化について書くつもりはありません。むしろ、この作業を通じて気づいた重要な点があったのです。 テープだけでなく、映像制作の概念そのものが変容 変化していたのは、テープに記録された磁気信号の品質だけではありませんでした。むしろ、映像作品の構成や演出手法が、現代とは全く異なるものであることに改めて気づかされたのです。その主要な理由の一つが、今更ながら明確になりました。 「解像度」が映像制作に与えた革命的影響 それは解像度の向上による映像制作手法の根本的な変化です。映像の世界では、解像度はそのまま情報量と言い換えることができます。 わずか10年ほど前まで、テレビ放送を含む一般的な映像の解像度は、ピクセル数で表すと640×480に過ぎませんでした。それが現在主流のフルハイビジョン(1,920×1,080)と比較すると、面積比で約7倍もの情報量の差があります。この劇的な変化は、映像表現の可能性を大きく広げました。 動画・映像の解像度と尺(時間)の密接な関係性 低解像度時代、我々映像制作者は被写体の詳細なディテール(表面の質感、輪郭の明確さ、細かな動きなど)の表現不足を補うため、カメラワークに工夫を凝らしました。被写体に寄ったり引いたり、縦横に動いて多角的に捉え、それらのショットを編集で時系列につなぐことで、ようやく高精細映像に匹敵する情報量を伝えることができたのです。 つまり、現在ならフルハイビジョンで10秒程度で表現できる被写体の情報量を、過去の低解像度時代には数倍の時間をかけて表現する必要があったのです。 さらに、画像だけでは伝えきれない情報や感情表現を補完するため、現代の基準では過剰とも思えるほど詳細なナレーション(解説)が付けられていました。 情報量保存の法則? 面積あたりのピクセル数でみるとNTSC方式(640×480インターレース)がフルハイビジョンの約1/7しかないという事実を踏まえると、かつては15分程度が主流だったVP(ビデオパッケージ・ビジネス映像・企業映像)の尺が、最近のウェブ動画では概ね2、3分程度に短縮されている傾向と、無関係ではないように思えます。 もちろん、過去と現在の企業映像における構成手法や尺の変化は、こうした技術的な側面だけが理由ではありません。時代のトレンド、映像文化の変遷、社会の進化なども大きな要因として挙げられます。また、いくら高精細の画像であっても、人間の認知能力には限界があり、画面のすみずみまで認識するには相応の時間が必要です。 映像技術の高精細化は、私たちに新たな表現の可能性をもたらす一方で、かつての映像制作者たちが培ってきた独自の構成技術や表現技法の一部が失われつつあることも事実です。技術の進歩と共に、私たち映像制作者も常に新しい表現方法を模索し、過去の技術と新しい技術のバランスを取りながら、より効果的な映像制作を目指していく必要があるのではないでしょうか。
- スマホアプリ制作と映像制作の要件定義
数年前のことですが、私が企画したスマートフォンアプリケーションの制作を外部に発注した経験があります。この経験は、ソフトウェア開発業界の特殊性と、発注者側の責任の重要性を痛感させられる貴重な機会となりました。 プロジェクトの開始時、開発会社から「要件定義書」の作成を求められました。私は熱心に取り組み、アプリの使用シーンを可能な限り想像し、「このボタンを押したらこうなる」「この機能を使えばこういう結果が得られる」といった具合に、考えられる限りの状況を網羅しようと努めました。自分の創造力を総動員して、アプリの細部にわたるルールや仕様を定義していったのです。 期待と現実のギャップ:予想外の欠落 要件定義が完了し、開発会社から「これで制作に入ります」と言われた時は、完成品を見られる日を心待ちにしていました。予定通りの期間を経て、試作版を見せてもらった時の興奮は今でも覚えています。自分が考案したアプリが実際に動作する様子を目の当たりにし、想定通りの画面遷移を確認できたときは、言葉では表現しきれない喜びを感じました。 しかし、その喜びもつかの間、重大な問題に気づくことになりました。アプリを操作していくうちに、「ここで最初の画面に戻りたい」と思った時、画面上のどこを探しても「戻る」ボタンが見つかりません。驚いたことに、画面を前の状態に戻す機能自体が実装されていなかったのです。これは単なる見落としではなく、アプリの基本的な操作性に関わる重要な機能の欠如でした。 契約上の現実と発注者の責任 この問題を指摘すると、開発会社からは予想外の回答が返ってきました。「申し訳ありませんが、その機能は要件定義書に含まれていませんでした。ご要望の機能を追加するには、別途費用が発生します。」この言葉に、私は愕然としました。 この経験から、ソフトウェア開発における契約の厳格さと、要件定義の重要性を痛感しました。「そうか、コンピュータソフトウェアの世界では、このような厳密な受発注関係が一般的なのか」と、業界の現実を知ることとなりました。 しかし、同時に疑問も湧きました。発注者が専門知識を持たない素人である場合、どうすれば全ての可能性を予見し、完璧な要件定義を行うことができるのでしょうか?ユーザーの行動パターンや、アプリ使用中に生じる可能性のある全ての状況を事前に想定し、それらを要件として明文化することは、実質的に不可能ではないでしょうか。 予算と品質のバランス:業界の現実 この疑問について、ソフトウェア開発の専門家に相談してみました。彼らの回答は、私の経験が決して特異なものではないことを示唆するものでした。極めて限られた予算で開発を行う場合、このような問題は避けられない場合が多いとのことでした。 つまり、完璧なプロジェクト管理と、予想されるあらゆる機能の実装を望むのであれば、それに見合った相当な予算を用意する必要があるのです。専門家がプロジェクトの全過程を綿密に管理し、発注者の意図を完全に理解した上で開発を進めるには、大規模な投資が不可欠だということを学びました。 映像制作業界との類似点:予算と期待値の関係 この経験を通じて、私は自身が携わる映像制作業界との興味深い類似点に気づきました。従来の数百万円規模の予算で行われる映像制作プロジェクトでは、要件はしばしば「この商品の売り上げを伸ばすこと」や「応募者を増やすこと」といった、比較的抽象的な目標一つに集約されることがあります。 このような場合、制作過程で目標達成が困難そうだと判断された際には、制作側が自己負担で修正を行うことが一般的です。ソフトウェア開発のように「要件にないので対応できません」と言って済ませることはできません。(ただし、クライアントの要求自体が大きく変更された場合は別途対応となります。) 低予算制作の現実と課題 近年では、30万円や50万円といった比較的低予算での映像制作も珍しくなくなってきました。しかし、このような予算で質の高い制作を実現するためには、発注側と制作側の双方が、明確な要件定義と期待される成果のレベルを事前に「共有」し、合意しておく必要があります。 そのため、低予算プロジェクトにおいて、当初の合意外の追加要求があった場合には「追加予算が必要です」と申し上げることがあります。これは限られたリソースの中で最大限の成果を出すための必要不可欠な対応なのです。 発注者の皆様には、この点をぜひご理解いただきたいと思います。予算と成果物の質には密接な関係があり、限られた予算内でできることには自ずと限界があることを認識していただければ幸いです。
- VRと360°映像は違います
360°カメラの特性と限界 360°カメラは、民生用から高度な業務用まで、様々な種類が市場に出回っています。これらのカメラの共通点は、現実世界の全方位を捉える能力です。しかし、その名前が示すように、これらのカメラは単に「そこに存在するものを撮影する」だけです。つまり、現実の世界を360度の視野で記録することはできますが、架空や仮想の世界を創造したり、撮影したりすることは不可能です。この点は、多くの人々が誤解しがちな重要な特徴です。 Virtual Realityの本質 一方、Virtual Reality(VR)は日本語で「仮想現実」と訳されますが、その本質は「仮想の世界に現実の要素を反映させる」技術です。VRは、コンピューターが生成した3D環境の中に、ユーザーを没入させることができます。確かに、360°映像を視聴するためのゴーグル型モニターは、ある意味で「仮想的な空間モニター」と呼べるかもしれません。そのため、360°カメラで撮影した映像をVRゴーグルで見ることを「VRを体験している」と表現しても、完全な間違いとは言えないかもしれません。しかし、これは厳密にはVRの一部の機能を利用しているに過ぎません。 誤解の連鎖と拡大解釈の危険性 このような拡大解釈が重なると、技術の本質を見誤る危険性が高まります。特に問題となるのは、360°カメラで撮影した映像で「自由な仮想体験」ができると誤解することです。具体的には、360°カメラの映像をゴーグルで視聴すれば、まるでその場所を自由に歩き回れるかのような錯覚に陥る人がいます。 例えば、視線を変えると新たな場所(例:階段)が見えて、そこへ移動できると考える人もいます。しかし、これは360°カメラの機能を大きく超えた期待です。実写のみの360°映像では、撮影時のカメラ位置以外からの視点を提供することは不可能です。 VRと360°映像の根本的な違い 真の意味でのVR体験、つまり自由に移動や探索ができる環境を作るには、360°カメラではなく3DCGツールを使用して、完全な仮想空間を構築する必要があります。例えば、ある壁の向こう側を見たいなら、その壁の向こう側のデータも事前に作成しておく必要があります。これは360°カメラの能力を完全に超えています。 実写データをCGに変換して仮想体験を可能にする方法もありますが、これは非常に労力のかかる作業です。そのため、単純な360°映像とVRを混同すると、技術的な限界に直面し、大きな失望を味わう可能性があります。 誤解の現実と注意点 驚くべきことに、「VRコンテンツを撮影して作りたい」と考えるクライアントの中には、このような誤解に基づいて壮大な計画を立てる方が少なくありません。しかし、360°カメラは確かに革新的な技術ですが、決して魔法のようなカメラではありません。 VRと360°映像の違いを正しく理解し、それぞれの技術の可能性と限界を認識しましょう。
- 動画制作仕様書作成ガイド
なぜ仕様書が必要なの? 動画制作を成功させるためには事前の準備が大切です。仕様書はあなたと制作会社の間で、動画に関する情報を共有するための重要なツールです。仕様書を作成することで、以下のようなメリットが得られます。 ▶︎目的の明確化 動画で何を達成したいのかを明確にすることで、社内でのコンセンサスの形成が図れると同時に、制作会社との認識のずれを防ぎ、理想の動画に近づけます。 ▶︎スムーズなコミュニケーション 詳細な仕様書があれば、様々な局面で指針となり、制作会社とのやり取りが効率化され、トラブルを未然に防ぐことができます。 ▶︎コスト削減 仕様書が明確であれば、企画案やシナリオがつくり易く、制作会社は無駄な作業を減らすことができ、コスト削減につながる可能性があります。 仕様書に書くべきこと 仕様書には、以下の情報を盛り込みましょう。 ▶︎プロジェクト概要 プロジェクト名(例:新商品紹介動画) 動画の目的(例:商品の認知度向上、購入意欲向上) ターゲット層(例:20代女性、アウトドア好き) 掲載媒体(例:YouTube、自社ウェブサイト) 納期 予算 ▶︎動画の内容 動画の長さ(例:30秒、1分、10分) 表現方法(実写、アニメーション、3DCGなど) ストーリー(おおまかな動画の流れ) 使用する素材(映像、音声、音楽など) ナレーション(有無、イメージ) ▶︎その他 撮影条件(撮影が決まっていることなど) 納品物の形式(例:MP4、MOV) 修正許容範囲 著作権 仕様書作成のポイント ▶︎具体的に書く 抽象的な表現ではなく、具体的な言葉で説明しましょう。 悪い例「かっこいい動画」 → 良い例「10代女性が共感できるような、明るく楽しい雰囲気の動画」 ▶︎図や表を活用 図や表を使うことで、複雑な情報を分かりやすく伝えることができます。 ▶︎参考動画を提示 理想とする動画のURLを提示することで、制作会社にイメージを具体的に伝えることができます。 ▶︎不明な点は相談・質問する 決められない項目や不明な点は、遠慮なく制作会社に相談、質問しましょう。 まとめ 仕様書は、あなたと制作会社の間の共通認識を確立するための重要なツールです。企画競合、見積競合を行う場合は、フェアな競争のために必須です。仕様書に対する概算見積書を比較して発注先を決めてもいいし、構成案やシナリオ、絵コンテの提案を求めて比較検討することもできます。もちろんプレゼン費用の負担については明確にしておきましょう。 丁寧な仕様書を作成が理想の動画への第一歩です。 ▶︎できれば以下のような項目を追加しましょう 希望スケジュール: 動画制作のスケジュール(企画、撮影、編集など) 参考資料: 自社の商品カタログ、競合他社の動画など 法務関係: 著作権、肖像権についてなど その他要望: 特に要望する点があれば、具体的に記載 ▶︎補足 上記はあくまで一例です。動画制作の目的に合わせて、内容を調整してください。 専門的な知識が必要な場合は、弁護士や会計士などに相談することをおすすめします。 こちらも参考にしてください。 → 納期まで時間がない時に
- スタートアップ企業の映像制作案件
あなたは、スタートアップ企業で社運を賭けた新サービスの販売促進計画を任されました。当然ですが前任者がいるわけではないので、そうしたプロジェクトのマニュアルも雛形もありません。アドバイスくれる先輩も同僚もいない場合、あなたが実行したことが前例として残っていきますから責任重大です。 スタートアップのような熱量が高いスタッフが集まった組織では、各論の論議が先行してしまい、肝心のターゲットや目標設定を後回しにして、薔薇色の成果を想像しがちです。 しっかりとしたエビデンスと条件設定、目標設定を行うことが重要なのは言うまでもありません。では、例えばテレビCMを核とした宣伝計画案が持ち上がったとします。 まず企画書をつくるとしましょう。 企画書には以下の要素が必要です 1. 企画概要 CMのコンセプト CM全体を貫くテーマやメッセージを簡潔に表現する ブランドイメージと整合性のある、魅力的で記憶に残るコンセプトにする ターゲット層 年齢、性別、職業、ライフスタイル、価値観など、具体的なターゲット層を絞り込む 放映時期と期間 計画準備期間やCM制作期間との余裕をもったスケジュールをたてる 2. 目的 販売促進、ブランドイメージ向上など具体的な目標 例:ブランド認知度を10%向上させる、販売数を20%増加させるなど) 3. 製品/サービスの特徴 アピールしたい主要な特長や利点 4. クリエイティブ戦略 ストーリーライン キーメッセージ CMの具体的なストーリーを絵コンテや文章で表現する 5. 媒体計画 テレビCMの放映期間、時間帯、頻度などを決定する。 ターゲット層の視聴習慣に合わせて、最適な媒体計画を立てる 6. 技術的詳細 撮影場所等社内に関係する事情がある場合 7. スケジュール 企画立案からCM放映までのスケジュールを詳細に記載する 各工程の担当者や期日を明確にする 制作から放映までのタイムライン 8. 予算 制作費、放映費の概算 9. 期待される効果 視聴率予測 売上や認知度向上の目標値 CMの効果を測るための指標(KPI)を設定する 10. リスク分析 想定される課題と対策 11. 競合分析 他社の類似CMとの差別化ポイント 12. 法的考慮事項 関連する規制や法律への適合性 4.〜8.については外部の制作会社に予め相談して、プランをもらっておくと良いでしょう。ただし、稟議が通らない可能性がある場合には、そのことを予め伝えておきましょう。 こうした計画案が出来上がっていればプロジェクトは力強く前進していきます。 後先になってはいけないこと 現実に、こうした計画的であるべきプロジェクトで、CMの絵コンテだけが先行して決まっているような事案をしばしば目にします。いざ制作が始まってみて、販促計画の全体像に相応しくないことに気づく例です。時間的にも費用的にも大きなロスであるばかりでなく、会社の志気にも悪い影響が出ますので心したいことです。 ほかにも、よくある失敗には以下のようなものがあります 1. ターゲット層の不明確さ 対象となる顧客層を具体的に定義せず、「一般消費者向け」といった曖昧な設定にしてしまう。 2. 差別化要素の欠如 競合他社のCMと似たような内容になり、独自性や記憶に残る要素が不足している。 3. 予算の過小評価 制作費や放映費用を楽観的に見積もり、実際の費用が予算を大幅に超過してしまう。 4. メッセージの複雑さ 短時間のCMで伝えられる情報量を過大評価し、視聴者に伝わりにくい複雑なメッセージになってしまう。 5. トレンドへの過剰な依存 一時的な流行やトレンドに頼りすぎて、長期的なブランド戦略と整合性がとれていない。 6. 効果測定指標の不適切さ CMの成功を測る具体的で適切な指標(KPI)が設定されていない。 7. 法的リスクの見落とし 著作権、肖像権、業界規制などの法的問題を十分に考慮していない。 8. スケジュールの非現実性 制作や承認プロセスに要する時間を過小評価し、実現不可能なスケジュールを組んでしまう。 9. ステークホルダーの考慮不足 社内の各部門(営業、製品開発、法務など)の意見や懸念を十分に取り入れていない。 10. データや根拠の不足 提案内容を裏付ける市場調査データや過去の事例分析が不十分。 11. ブランドガイドラインとの不整合 企業やブランドの既存のイメージやガイドラインと一致していない内容になっている。 12. フォローアップ戦略の欠如 CM放映後の効果測定や次のステップに関する計画が不明確。 まとめ プロジェクトの初期段階から多角的な視点で検討し、社内の関連部署や外部の専門家の意見も取り入れながら、綿密に計画を立ててください。スタートアップでは全社一丸となることが、何よりも重要です。あらかじめ社内のコンセンサスを得た計画案を作り上げてから進めることが、何よりも大切です。
- 映像制作・動画制作見積書の要点
見積書は企画(シナリオ)に対して作成します ビジネスとして映像(動画)コンテンツをつくる場合、制作を請け負う私たちは、「どのような映像にするか」について、クライアントと予め合意して仕事に取り掛かります。見積書はそのプラン(仕様)に対して作業工程ごとの工数を割り出し、調達する物資や経費等を含めて積算し作成します。 しかし映像制作・動画制作という案件は、大きな企業であっても上限予算があり、その範囲内で可能な企画に落とし込むという、というのが現実です。面白い企画ならいくらでもいい、というわけにはいきません。 予算を脳裏に置いて企画を考える ご予算が予め決まっていて「さて、どんな映像にしましょうか?」とお客様と打ち合わせをする場合、制作に掛かる工数や仕様について、我々は予算の範囲内でできることしか提案できないわけですが、お客様は大きな夢を描いている場合もあります。 その夢が無理難題のようであっても、経験豊富な制作者であれば、すぐさまその代替手段を提案できなくてはなりません。同時に、代替手段ではその企画は成立しないことが明白であれば「その企画は無理です」と理路整然と説明できなくてはなりません。「できないこと」を「できます」ということほど、関係者に迷惑を掛ける行為はありません。 映像制作見積書は軸足をきめて 「3分くらいの商品PR動画をつくりたいので、見積りをください」 実はこうした問い合わせを受けると、私たちは途方に暮れます。 「3分」「商品PR」って言っているじゃないか? でも、これだけでは何を作ればいいのかわかりません。 オフィスの会議室で照明を使わずにカメラを置きっぱなしにして、誰かがその商品について3分喋るだけ、でしたら10万円の予算で制作することもできますが、上場企業がテレビでオンエアするブランディング目的の商品CMレベルだとしたら、数百万円以上ということになります。 発注する企業によって予算が違うのか? と思うかも知れませんが、一般的に大企業の発注する映像に期待される品位を実現するには大金が必要です。個人商店を経営されている方でも、動画を作りたいと夢を膨らませると、脳裏にはそうした大きな予算をかけた映像をイメージする方も多くいらっしゃいます。 見積り算出の条件になり得る情報 映像制作会社は、以下のような質問をします。 (1)商品はなんですか? (2)どこで、誰に見せる動画ですか? (3)構成・シナリオのイメージはありますか? (4)いつまでに必要ですか? (5)ご予算はどのくらいですか? (1) その商品が大きいものなのか、形があるのか無いのか、どういう性質のものなのかによって、撮影ができるものなのか、イラストやCGにしないと描けないものなのか、撮影に高度な技術や機材が必要なのかとか、撮影のチャンスが1度しか無いとか。これらの条件でコストが大きく違ってくるからです。 (2) WEBにアップするのか、テレビでCMとして放送するのか、イベントで上映するのかによって、映像に求められる品位や規格が異なり、当然コストも違ってくるからです。また、視聴媒体によって視聴者が求めるクオリティも違ってくるため制作コストも違ってきます。 (3) 類似の映像がわかれば、問い合わせされた方の脳裏にある動画のイメージ、品位、個性が推測できるので、どの程度の作り込みが必要か、どういうタイプのクリエイティブを求めているかがわかり、実現可能かどうかも判断できるからです。 (4) 制作期間の長短によってキャスティングできる人材が違ってきますし、短期決戦であれば、例えば編集の修正機会が限られるため、そう長く拘束されることがなく、予算を抑えられるかも知れないからです。もちろん不眠不休になる場合「特急料金」が必要になることもあります。 (5) 問い合わせされた方がその動画に掛けても良いと考えている金額によって、その動画への期待度がわかり、イメージの擦り合わせが早くできるからです。また、ご予算と期待度に大きな乖離がある場合、できるだけ早くそうした齟齬を回避しないと、双方とも大きなロスになるからです。 腹の探り合いは避けたい これらの「軸」を起点に脳裏にある周辺のイメージを掴む質問をします。最低でもこれらのうち、ひとつでも具体的にお話しいただくと、私たちはお客様のイメージを具体的に掴むためのお話がし易くなります。「腹の探り合い」で時間をロスすることが少なくなるばかりでなく、最終的にできあがる動画も思いどおりに近いものになるからです。
- 映像編集技法は学問にになり得るのか
過去に4回にわたって映像(ショット)の「つなぎ方」のあれこれを紹介して、それぞれの技法がどのような効果(意味)を生むのかを説明してきました。こうして文字にしてネットに掲載する以上、ある程度社会で承認されている認識であることをネットサーフィンして調べるのですが、調べれば調べるほど混乱してきます。 映像編集の基礎知識(1)スクリーン・ダイレクション 映像編集の基礎知識(2 )カットアウェイ 映像編集の基礎知識(3 )ジャンプカット 映像編集の基礎知識(4 )コンティニュイティ編集 映像編集用語の曖昧性と、その背景にある問題 映像編集の技術を学ぶ上で、まず突き当たる壁となるのが、用語の曖昧性です。例えば、「カットバック」という用語一つとっても、様々な定義が存在し、人によって解釈が異なることがよくあります。この曖昧さは、映像編集技法がまだ体系化されておらず、人々の感覚や経験に基づいて独自に発展してきた歴史が背景にあると考えられます。 なぜ、映像編集の用語はこれほどまでに曖昧なのでしょうか。その理由として、以下の点が挙げられます。 技法のオーバーラップ 映像編集の各技法は、明確に区別できるものではなく、多くの場合、複数の技法が複合的に用いられます。そのため、一つの用語に複数の意味が込められてしまうことが多く、定義が曖昧になりがちです。 オーソリティの不在 映像制作業界には、特に日本では、映像編集に関する学術的な研究や教育を行う機関が少なく、権威ある定義が存在しません。そのため、各映像制作者が独自の用語を定義し、使用している状況です。 業界の分断 映画、テレビ、CM、企業映像など、映像制作の分野は多岐にわたっており、それぞれの分野で独自の用語や手法が発展してきました。そのため、業界全体で共通の用語や定義を確立することが困難です。 言語化の難しさ 映像編集は、視覚的な表現を扱うため、言葉で全てを説明することが難しい側面があります。そのため、経験や感覚に基づいた暗黙の了解が、コミュニケーションの多くを占めています。 映像文化の成熟度と、学問としての映像編集 映像編集の用語が曖昧であるという事実は、日本の映像文化がまだ成熟していないことを示唆しています。例えば、米国や欧州には、映像制作に関する学術的な研究が盛んに行われており、映像編集の理論や手法が体系化されています。これに対して、日本では、映像制作は経験や感覚に基づいた職人芸的な側面が強く、理論的な裏付けが不足している傾向にあります。 なぜ、日本は映像編集の学問化が遅れているのでしょうか。その理由として、以下の点が考えられます。 実学重視の傾向 日本では、理論よりも実践を重視する傾向が強く、映像制作も例外ではありません。そのため、映像編集の技術は、現場で経験を積むことで身につけるものと考えられてきました。 業界の規模 日本の映像制作業界は、米国や欧州に比べて規模が小さく、学術的な研究に投資できる余裕がありません。 言語化の難しさ 前述したように、映像編集は、言葉で全てを説明することが難しい分野です。そのため、学問として体系化することが困難です。 映像編集の未来 映像編集の用語が曖昧であるという現状は、改善すべき点であることは間違いありません。しかし、一方で、映像編集の面白さや魅力は、この曖昧性の中にこそあるとも言えます。映像編集は、正解のない、クリエイティブな活動であり、人それぞれの感性や解釈によって、無限の可能性を秘めています。 今後、映像制作の技術はますます高度化し、多様化していくことが予想されます。それに伴い、映像編集の理論や手法も、より洗練され、体系化されていくでしょう。しかし、同時に、映像編集の根底にある、人間の感性や創造性を大切にするという精神は、決して忘れてはいけないものです。 まとめ 映像編集の用語の曖昧性は、日本の映像文化の現状を映し出す鏡と言えます。この問題を解決するためには、映像制作者だけでなく、映像教育に関わる人々、そして社会全体が、映像編集の重要性を認識し、学術的な研究や教育に力を入れる必要があります。
- 動画・映像制作打合せ-テレビ会議でちゃんと「対話」するには
オンライン○○が大流行 様々なテレビ会議システムがオンラインサービスで提供されていて、今はTEAMSとZOOMが独走状態に入った印象ですが、これも革新の波がやってくれば、大逆転もあるかも知れません。 「アイコンタクト」が活かされていない 自分自身がそうなのですが、テレビ会議って案外、モニターに映っている相手の顔をまじまじと視たりしないですよね。思い返すとたしかに相手を視ていたと思うのですが、どんな表情をしていたとか、ほとんど記憶に残っていません。また、人によっては自分を映しているいる別置きカメラのレンズを視ながら喋る人もいるので、こちらでは「そっぽ」を向かれている状態で、画面を視ていてもあまり意味がないときもあります。 コミュニケーションは相手の目を視て 親密なコミュニケーションの基本であることは、みなが知っている割には、テレビ会議ではこのことがあまり問題にされませんよね。ネットで検索してみると、2010年代の初頭、テレビ会議が普及してきた頃には、大学などでこの「テレビ会議での視線」に関する研究も行われていた報告があるのですが、ここ最近では目に付きません。たぶん今はもう「そういうものだから」ということでしょうね。 もう少し努力してもいいのでは? 映像コミュニケーションを生業とする僕らにとっては、ちょっと雑なコミュニケーションシステムなんじゃないかと思います。過去に行われた「視線を合わせる」実験装置はちょっと大掛かりな装置が必要なシステムだったようなので、今の技術ならばもう少しスマートな端末で可能になるのではないのか、と勝手な想像をしますが、現実的には多くの問題でブレークスルーが起こらないと無理かも知れません。 ビデオ撮影の基本と同じ カメラ目線✕カメラ目線の映像でコミュニケーションすれば、互いに「視線を合わせている」ことになることは、おわかりになりますよね。 映像撮影技術の基本として、カメラ目線で撮影する時には、被写体の方にはカメラのレンズのほんの少し上を視ながら喋ってもらうようにお願いします。そして、顎は少し引き気味に。あまり引きすぎると上目遣いになるので適度に。そうすると、映像を見た人には被写体の方が人柄よく感じるように映るはずです。カメラと被写体の距離があまり近いと、上目遣いがバレるように、テレビ会議でもWEBカメラ(+モニター)が近すぎると目線がおかしくなりますし、顔の位置より低く、見下ろした形になると印象が悪くなりますの。かならず自分の顔の高さに合わせましょう。
- カメラモニタリングシステム・未来のクルマのガラス面は全部映像モニターになる?
いよいよ自動車は後方、側方の安全確認をバックミラーの代わりに、カメラが捉える映像が役割を果たす時代が到来しました。 道路運送車両の保安基準等の一部改正について 電子ミラーが鏡に代わる 国土交通省はこの6月、道路運送車両の保安基準を改正し、「カメラモニタリングシステム」を国内基準として承認。自動車メーカーは、国際基準に適合する「電子ミラー」などを備えることで、バックミラーがない自動車を設計・製造することが可能になります。 「間接視界基準に係る協定規則」は、左右のミラーごとの規定されていた視界範囲について新保安基準では、いずれかのミラーにより定められた視界範囲が確認できれば良いことになる。とのこと。 クルマはすでに液晶ディスプレーだらけになっている ところで、スピードメータなどのメーターパネルはとっくに液晶モニターになっているし、カーナビの画面ももちろん液晶モニターなので、実は僕の会社ではこれらのおかげで、自動車関係業界や部品製造業界から関連する技術をプレゼンしたり解説するための、デモ映像やPR映像を作らせていただく機会がけっこう多いのです。 作品を見てもらえないのが残念 実際には3年から5年先に発売になるクルマに搭載する、こうした新商品や新技術は、他社に出し抜かれぬ様トップシークレット中のシークレット。弊社が制作した実際の映像を皆さんにご覧いただけないことがとても残念。 さて、なぜそんな話が持ち込まれるのでしょうか。 それは僕が、こういう種類の仕事が好きだから。 日本型技術開発はハード先行 というのはどういうことかというと、自動車の新しい技術や機能などは、各社が最先端の技術者や設備を使って行う社運をかけたプロジェクトです。ところが多くの日本メーカーでは、新開発事業についてどこまでいってもハードウェア主導で事が進むため、僕らには肝心なことに思える「それによって可能になること」というソフトウェア面でのイメージが殆ど無いままに開発が進展しちゃうのです。 で、そろそろ実現性が出てきたので、自動車メーカーにプレゼンしようか、という段階になって「映像でプレゼンすると分かりやすいね」「動画にするとインパクト有るよね」となり、弊社のような会社に相談が来ます。 え!? オリエンテーションでは、画期的で独自性のある技術であることを熱く聞かせていただけるのですが、「で、これを使ったらどんな生活が実現できるとお考えですか?」とお尋ねすると、「それを含めてご提案いただきたい」となるのです。 実現後のイメージ無しに開発しちゃうの!?と思うのですが、現実にそういうお話とても多いんです。 弊社はそこからやります 普通のプロダクションであれば、それはお客さんが考えること、あるいは広告代理店が考えることと、匙を投げるような漠然としたお話が僕は大好きです。 情熱と期待を賭けて実現にこぎつけたご担当者の方と一緒に、口下手な技術者の方の夢を「こういうことですよね!」と、目に見える映像にして差し上げることがこの上なく幸せなんです。 UIにまで及ぶデザイン・映像制作 今後、自動車に搭載されるモニター(ディスプレー)は、タッチ操作をすることが主流になるので、映像制作といっても「ユーザーインターフェイス(いわゆるUI)」を含めたデザイン開発から行うことになります。これが面白く無いはずがありません。 何年か後の自動車運転席での各種操作性の潮流に関わることができるかも知れないのですから。 クルマと対話する技術を映像化する 例えばカーナビは、海外ではもうiPhoneやAndroidなんどのスマホをクルマに接続して、スマホの頭脳を借りながら、クルマとドライバーが対話(まさに声でのやりとり)しながらドライブを楽しむことが現実になりつつあります。 日本では、なにか事情があるのでしょうか、ちょっと遅れ気味ですが、必ず「クルマと対話しながら運転する時代」が来ます。 iPhoneだとCarPlay、AndroidだとAndroid Auto これらは、人間とクルマがコミュニケーションするためのアプリです。 あっという間に広まるかも知れません。 これらに関する技術のプレゼンをしたい時は、ご相談下さい。 ※この動画は弊社の制作ではありませんので念のため。